映画・舞台・テレビで活躍する俳優、別所哲也氏。1999年から米国アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」を主催するなど、映画興行業界にも詳しい。特集『コロナで崩壊寸前!どうなる!?エンタメ』(全17回)の#5では、別所氏にアフターコロナのエンタメ業界の方向性を聞いた。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
エンタメ業界はもう「コロナ前」には戻れない、構造自体が大きく変わる
――コロナ禍が映画業界に与えた影響とは?
僕は映倫(映画倫理機構)の委員もしているのですが、聞いている範囲では、月次の映画の配給は通常時の約90%減になっています。また、撮影もたくさん止まっている。僕も製作中のショートフィルムの撮影と出演予定だったミュージカルが二つ、それぞれ中止になりました。全世界的にものすごい打撃ですし、日本でも映画や演劇の産業がいったん全てストップしてしまったことは間違いないです。
これからのニューノーマルの中では、エンタメの構造自体が大きく変わると考えています。コロナ前と同じ状況に戻ることができるとは考えない方がいいと思っています。
例えば、感染対策を踏まえて全世界で映画の製作ガイドラインを根本的に考え直さなくてはならないわけです。この中で、どうしても濃厚接触が必要になるキスシーンやラブシーンはどうやって撮影するのか。密そのものの群衆シーンや格闘、スポーツのシーンは?アフターコロナの現代劇を描く以外、役者はマスクができない。時代劇やファンタジーを撮るにはどうすればいいかなど、いろいろあるわけです。当然、海外から移動してきた役者に対しては、撮影期間に加え検疫・自己隔離期間2週間分のスケジュールを押さえる必要があることになります。また、感染リスクの高い子役や高齢の俳優は濃厚接触シーンからは外さなければならなくなるかもしれません。
こうした一連の問題を、脚本や撮影の技術でどう乗り切れるかということが、今後問われることになります。濃密な人間関係を描くとき、キスしなくても愛し合っていることが伝わるような演技や脚本とは何か。僕が20代でトレンディー俳優をやっていたときとは、違う演じ方や表現になりますよね。かつてヨーロッパでペストが大流行した後、ルネサンスが起きて表現や芸術の在り方はそれ以前とは大きく変わりました。今回もそれと同様のことが起きるかもしれません。
「本物」の定義が変わるとも思います。例えば、本物のロンドンとは実際に英国のロンドンに行って撮影することではなく「本当のロンドンとは何か」のエッセンスを提示できているかどうかが問われる、というふうに。どうリアリティーを追求し、人の心に迫る演技や脚本だったかについて、より純度高く求められるようになる。
――リアルで実写作品の撮影を行うことのリスクは非常に高くなります。映画のロケの仕方は変わりますか?