希望売却金額、4000億円。巨額なのに奇妙なほど話題にならない大型売却が、武田薬品工業の一般用医薬品(OTC)子会社の売却だ。国内外の投資ファンドと企業がオークションに参加し、7月22日に最終ビッド(入札)を迎えたもよう。特集『開戦 ファンド大買収』(全10回)の#2では、この沈黙のビッグディールを糸口に、コロナ時代のファンド活劇に迫る。(ダイヤモンド編集部副編集長 杉本りうこ)
東芝半導体、カルカンに
続く大型売却の舞台裏
武田薬品工業が売却を進めているのは、完全子会社の武田コンシューマーヘルスケア。武田本体の事業部門だったのが、2017年に完全子会社として独立した。ビタミン剤の「アリナミン」や風邪薬の「ベンザブロック」を主に手掛け、特にアリナミンは錠剤とドリンク類を合わせると年商の約5割を占める主力商品だ。開示資料で確認できる直近業績は19年3月期のもので、売上高641億円、純利益96億円となっている。
この子会社を武田は、4000億円で売却しようとしている。4000億円という金額の大きさは、日本国内での他の主な買収案件と比べると一目瞭然。下表は投資ファンドが関係した近年の主な買収案件だが、17年の東芝の半導体子会社(現キオクシア)が2兆円でぶっちぎりのトップ。次に来るのが16年のカルソニックカンセイ(現マレリ)の4984億円(金額は発表当時のレコフのデータ)。今回の4000億円という金額は、これに続く規模なのだ。
武田はファイナンシャルアドバイザー(FA)に野村證券を起用し、5月に売却オークションを開始。主な参加者はいずれも米系投資ファンドのKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)、ブラックストーン・グループ、ベインキャピタル、加えて大衆薬国内最大手の大正製薬ホールディングスだ。この面々のうち、ファンド関係者の間からはこんな戸惑いの声が早くから漏れていた。「大正の金額が伸びない」――。