ただ、物事には良い面があれば必ず悪い面がある。では、「日本的プロ意識」の負の側面は何かというと、「個人の軽視」だ。
「親や子どもが死んでも、みんなに迷惑をかけないよう仕事を休まなかった」「病気に苦しんで大変な時期だったけれど、周囲にそういう素振りをまったく見せずに大きな仕事を成し遂げた」などというエピソードが、時としてサラリーマンの「美談」として語られているように、「プロ」には自分を犠牲にすることが求められる。
だから、テニスファンのため、スポンサー企業のため、そして日本のため、自分の心を殺すことができない大坂さんにイラつくのではないか。「みんなの迷惑を考えないなんて、自分勝手な人間だ」と怒りが込み上げてしまうのである。
日本の若者の半数は
自分を殺して生きている
「そんなのは勝手な妄想だ」と言う人もいらっしゃるかもしれないが、われわれが「みんなのために自分を殺さなくてはいけない」という強迫観念に囚われていることは、さまざまなデータが裏付けている。たとえば、内閣府が2018年に実施した「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」がわかりやすい。
日本、韓国、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデンという7つの国で、それぞれ満13歳から満29歳まで1000人程度の男女を対象に実施されたこの調査で、「他人に迷惑をかけなければ、何をしようと個人の自由だと思うか」という質問に対して、「そう思わない」「どちらかといえばそう思わない」と回答した若者は、韓国では20.7%、ドイツで21%、アメリカで15.8%、フランスで15.7%となった。
要するに、若者の8割は「俺は自由だ!好きなように生きるぞ!」という考えを持つのが、諸外国に共通する特徴なのだ。
では、日本の割合はどうかというと、なんと49.4%。若者のおよそ半分は、他人に迷惑をかけなくてもある程度、自分を殺すのを当然のことと考えている。自分の考えを表明する大坂さんにイラつく人が多いのは、これが理由である。