コロナ後の世界はどうなるのか?経営者はどうあるべきか――。特集『賢人100人に聞く!日本の未来』(全55回)の#19では、一橋ビジネススクール教授の楠木建氏に取材した。楠木氏が経営学の最前線で考える「コロナパンデミック」についてお届けする。(ダイヤモンド編集部 小栗正嗣、加藤桃子)
コロナウイルスのまん延は
危機ではなく「騒動」
――新型コロナウイルスが依然として猛威を振るっています。
結論から言うと、これは危機ではなく「騒動」だと思います。
今回のコロナ禍で僕が連想したのは、一つは1918年の米騒動です。ポイントはですね、あれは食糧危機ではなく、米の物理的な不足は全くなかったということ。つまり「騒動」とは、人間が知覚し脳内で増幅させた危機で、いわば人間社会のメカニズムが生んだ「脳内危機」だということです。
今回のコロナ「騒動」も同じだと考えて、今後の指針を決める上で、絶対に確実な方法は「改めて人間の本性を考えることなんじゃないのか?」というのが結論です。
コロナ後に世の中は本当に
「変わる」のか?
もう一つ、なんといっても類似しているのは、1918~20年に流行した「スペイン風邪」ですよね。
『史上最悪のインフルエンザ:忘れられたパンデミック』という本があります。著者がこの本を書いた動機は二つ。最悪だったパンデミック(世界的大流行)を後世に残したいというのが第一の動機で、第二の動機は、副題にあるように、あんなに大騒ぎしたのに、数年でみんなが(パンデミックのことを)きれいさっぱり忘れているのはなんでなんだろう?という不思議さからです。
人間は、つらかったことや不便だったことを忘れるようにできている。これって人間の本性だと思う。僕は今回のコロナ騒動も、まず間違いなく同じだと思う。
「コロナ禍で世の中が変わる、もう以前には戻れない」と言う人たちがいるんですが、私の推測では、ほとんど元通りになると思います。ただし、リモートワークのように、今までの「因習」を突き破って新たに出てきた「無駄なことはしたくない、面倒なことは嫌だ」という人間の「本性」は、定着すると思うんですよ。
人間は今まで、「100年に一度の危機」を何回も繰り返してきた。毎回、世の中が一変するって言うんですけど、あんまり変わっていないんじゃないかと。われわれが歴史から最も学ぶべきことは、「いかにわれわれが歴史から学んでいないか」ということだと思います。
人間はいかなる環境にも
「適応」できる
今回、過去のものをいろいろ読んで、歴史から学べると思ったものは、戦時中、空襲下の日常を生きていた人々の日記です。
人間の適応力というのはかなり信用できるなと、つくづく思いました。日記を半年分くらい読み進めていくと、壮絶な日々の中でも人々が空襲に慣れる様子が垣間見えるんですよ。
今回のコロナ騒動でも確実に言えることは、人間がそれなりに適応しているということ。人間社会の基本的なメカニズムというか特徴のようなものを改めて見せてくれたなあと思います。
経営者はコロナ禍においてどうあるべきか
気鋭の経営学者の答えとは?
――4~6月期のGDP(国内総生産)が年率27.8%のマイナス、海外からのインバウンド旅行者は皆無、マーケットの一部は蒸発しています。ある種の過剰適応が起きている中で、経営者はどうあればよいのでしょうか。