単なる「優秀な部下」にとどまるか、「参謀」として認められるか――。これは、ビジネスパーソンのキャリアを大きく分けるポイントです。では、トップが「参謀」として評価する基準は何なのか? それを、世界No.1企業であるブリヂストン元CEOの荒川詔四氏にまとめていただいたのが、『参謀の思考法』(ダイヤモンド社)。ご自身が40代で社長の「参謀役」を務め、アメリカ名門企業「ファイアストン」の買収という一大事業に深く関わったほか、タイ法人、ヨーロッパ法人、そして本社CEOとして参謀を求めた経験を踏まえた、超実践的な「参謀論」です。本連載では、本書から抜粋しながら、「参謀」として認められ、キャリアを切り開くうえで、欠かすことのできない「考え方」「スタンス」をお伝えしてまいります。
参謀の仕事とは、
とてつもなく”泥臭い”ものである
参謀の仕事とは“泥臭い”ものです。
私が、秘書課長として社長の参謀役を務めていたときも、やっていることはほとんど“泥臭い”ことでした。
たしかに、社長と役員とのグループ事業戦略のディスカッションや、社内の重要会議への陪席、社長起案の提案書の取りまとめや、社長のグループ向けスピーチ原稿の起案・作成といった仕事も重要なものではありましたが、仕事の総量からするとほんの一部。仕事の大半は、社内外の関係者との協議・調整に割かざるを得ませんでした。
そして、それぞれに利害得失が異なるさまざまな関係者と協議・調整を行うのは、まさに“泥臭い”というほかない仕事です。私の場合には、アメリカの名門企業だったファイアストンの買収・PMI(経営統合)という非常にドラスチックな経営改革の真っ只中でそれを行ったわけですから、なおさらそうでした。
しかも、ファイアストンの買収には社内外から強い反発がありました。当時の日本では最大級の買収金額だったうえに、ファイアストンは1日1億円の赤字を出している状態でしたから、それも当然の反応。綿密なデューデリジェンスを行う時間もありませんでしたから、「買収後、何が出てくるかわからない」「危険すぎる」と各所から突き上げもくらいました。
しかし、苛烈なグローバル競争に勝ち残るためには、この選択肢しかないと腹をくくった当時の社長は、猛烈な反発に一切ひるむことなく断行したわけです。そして、社長が次々にくだす意思決定を、さまざまな部門と階層の関係者に伝え、説明し、理解を得るのは私の仕事。反発の矢面に立ち続ける――すなわち“泥”をかぶる――のが私の仕事だったのです。