再犯の背景にある、出所者の生活苦

――篠田さんはこれまでも、前科のある人の更生や社会復帰について取材していらっしゃいます。今回の件に限らず、どのような課題があると感じますか?

 たとえば薬物犯罪で服役した人は、出所後に仕事がなくて追い詰められてまた薬物をやるというパターンがとても多いのです。国も職業訓練を安く受けられるようにするなど多少のサポートはあるけれど、十分ではない。満期出所の人には、どうぞ自分でやってください、と放り出すというのが実情です。

 再犯をなくすためには社会整備がもう少し必要でしょうね。薬物犯罪については最近、依存のメカニズムや、治療が大切なことが少しは理解されてきたように思いますが、性犯罪の場合は社会の受け止め方は非常に厳しいと思います。

――ネットを見る限り、「死刑でいい」「一生刑務所から出すな」という意見も多いですね。一方で被害者に対するデマやバッシングが起こることもあり、加害者と被害者両方に対して偏見がある犯罪だと感じます。

 一つの問題として、服役した人が出所した後にどうしているのかを一般の人はまったく知らない。有期刑である限り、元受刑者は出所して市民社会で生活していくのですが、今のマスコミの事件報道は、逮捕や刑の確定で終わってしまうでしょう。罪を犯した人にとってはその後の人生が大変なわけです。事件を機に家族から見放される人も少なくないので、出所した後は、就職はもちろん住まいの確保も簡単ではない。

 薬物依存で何度も逮捕されている人などは、出所するたびに身寄りを失い、社会的に追い詰められていくわけです。出所して帰る家があるというだけで恵まれているといえるかもしれません。刑務所で再犯防止プログラムを受講しても、出所後それを実践していこうと考える余裕もないというのが多くのケースでしょう。

筆者注:例えば今年4月、大阪の地下鉄駅構内などで5件の強制性交・強制わいせつを行ったとして懲役8年の判決となった42歳の被告人には強制わいせつの前科があり、出所から半年で事件を起こしていた。被告人は、刑務所で聞いて知っていた再犯防止のための認知行動療法を出所後になぜ受けなかったのかを法廷で問われ、「金がなかった」と答えた。情状酌量のために出廷する家族もいなかった。

「教訓化しなければならない」

 出所後の環境の面でいうとナオキの場合は親とも関係を保っているし、一緒に生活していた事実婚の妻もいた。音楽関係ではないが、仕事も持っていました。養子縁組をして名字を変えるといった、いろいろな手を打ったことも寄与したのだと思いますが、生活は一応安定していました。R3プログラムについても理解を持っていたし、私は、彼の場合はもう更生は大丈夫と思っていました。

 その彼が再犯したということで、むしろその点は深刻ですね。じゃあどうすれば良かったのか、今後、そこを掘り下げて、再犯防止のための教訓にしなくてはならないと思います。

――今後の接見で、本人に聞きたいことはありますか?

 R3プログラムの普及や再犯防止に取り組む人たちが努力してきた活動に冷や水を浴びせたわけですから、本人に課せられた課題は「どうすればよかったのか」を自分で掘り下げることですね。本人もまだ気持ちの整理がついていないと思いますが、本人にとって一番大変な「どうすれば」という課題について今後、彼とは話していきたいですね。

筆者注:現在、さらなる性犯罪刑法の見直しについて、法務省で検討会が開かれている。被害当事者として初めて同検討会メンバーに選ばれた山本潤さんは、決定時に「加害者治療(臨床)の専門家も入れる必要があったと思う」とコメントしていた。
 
世間では「加害者に金をかけて治療しても意味がない」という意見も根強いが、問題に取り組む人からは、加害者臨床による再犯抑止の必要性が説かれている。再犯抑止を真剣に考えなければ、被害者を増やすからである。検討会では、加害者臨床の専門家である筑波大学の原田隆之教授から資料が提出され、参考とされていた。

 なぜ再犯してしまうのか。繰り返さないためにはどうすればいいのか。今後さらに建設的な議論が必要だ。