価値観や常識は押し付け合わない。
新しい家庭の基準をつくる「ベクトル合わせ」

 例えば、30代後半のHさん夫婦の場合、Hさんは裕福な経営者の娘として生まれ育ち、旦那さんは商店街の飲食店で生まれ育ちました。

 恋愛結婚でしたが、結婚を決める段階で、Hさんはお母さんから「生活レベルが違い過ぎるから、結婚して苦労する」と助言されたそうです。Hさんは、それを気にもせず結婚したのですが、お母さんの助言が現実となったのは、子どもが生まれてからです。

 Hさんは欲しいものは必要である限りはいつでも買ってもらえる環境で育ったため、自分の子どもにもかわいいと思った服や欲しがるおもちゃをその都度買っていたそうです。けれど、旦那さんから「なんでそんな高いもの買っちゃうの!」と怒られたと言います。

 欲しいものは誕生日かクリスマスプレゼントでしかもらったことのない旦那さんには、自分だって欲しいものをずっと我慢してきたのに、子どもに何でも買い与える習慣は贅沢過ぎるのではないか、子どもに我慢を教えられず、甘やかしてしまうのではないか、と映ったのでした。

 まさに「育ち」の違いで、悪意に解釈すれば、Hさんからみれば旦那さんは「ケチ」な人間ですし、逆に旦那さんからみれば、Hさんは「浪費家」なのです。Hさんと旦那さんを逆にしたパターンも含め、こうした金銭感覚の違いが夫婦関係をギスギスさせてしまった例は数多くあります。

 そのため、後から相手の価値観をもっと理解しておけばよかったと後悔する人が多いのですが、問題は「価値観を見抜けなかった」からではありません。相手の価値観への「理解不足」なのです。

 Hさんはそのことに気づいて、買う前に旦那さんに相談するようにしたそうです。それも旦那さんの視点に立って、彼が言うであろうことを先に自分から言うようにしたのです。

 例えば、「(子どもが)○○を欲しがっているんだけど、高いけど買う?」という言い方で相談すると、「高いけど、欲しいって言ってるんだから、買うか」と旦那さんの反応は180度変わったそうです。

 旦那さんは相談もなく、一方的にHさんの価値観や常識を押し付けられることに違和感を持っていたのです。Hさんから相談され、話し合って決めるというプロセスを経ることで、Hさんの常識でもなく旦那さんの常識でもない、H家としてのベクトル合わせができたわけです。

 結婚生活はどちらかの価値観を押し付けるのではなく、無限のベクトル合わせをしていかないと、早晩どちらかのストレスが爆発することにもなります。その第一歩は、お互いの価値観をきちんと理解することから始まるのです。