社員に対して疑心暗鬼になる企業

 例えば、在宅勤務の場合に、業務の遂行方法や時間配分について社員の裁量に任せ、実際の勤務時間にかかわらず一定時間働いたものとみなす、事業場外みなし労働時間制を導入して適用することは、理にかなったことだ。ところが、これを導入しようとすると、社員が悪用して働かないのではないかと考える経営者や担当者もいる。

 在宅勤務の状況に合わせて、時間単位で有給休暇を取得できる制度を導入することも、現実にかなう対応だ。しかし、これに対しても、在宅勤務では働いているのか休んでいるのかが分からないので、時間単位の有給休暇制度を導入しても意味がないのではないかという声がある。

 こうした声が上がる企業は、社員に対して性善説に立っていないといえる。性善説に立っていないので疑心暗鬼になり、社員に裁量を与える制度の導入に二の足を踏む。

 そのような企業は、制度導入してしまうと、会社は社員が望むように社員の希望を認めなければならないと思い込んでいることが多い。だから制度導入に踏み切れない。在宅勤務を認めるかどうかも、裁量労働の対象も、残業してもらうかどうかも、有給休暇の承認も、通勤手当の支給も、会社の承認があって初めて実行に移されるにもかかわらずだ。

 状況を聞くと、社員からの申請と上司や人事部の承認のプロセスが機能していないケースが多い。なかには、上司からも人事部からも何も言われないので、勝手に在宅勤務を続けていたというケースもあった。

制度の良しあし以上に重要なこと

 就業規則や規定にかなうかどうかは、上司や人事部が判断して承認すべきものだ。裁量労働制の適用の例を挙げると分かりやすい。研究開発など専門的業務や、事業運営の企画業務や、営業など事業場外での業務に携わる社員に、専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制、事業場外みなし労働時間制が適用できる。

 例えば、研究開発部、企画部、営業部というように対象となる部を定めることが多いが、その部にいれば誰でも希望すれば裁量労働制やみなし労働時間制が適用されるわけではない。業務時間の管理ができている人でなければならないからだ。そうした制度を適用して問題ないかどうか、判断し、承認するのが上司の仕事である。

 リモート勤務が常態化している状況は、いやが応でも社員に裁量を与えて運営していかざるを得ない事態といえる。

 だとすれば、一定の裁量を与えた上で上司が申請と承認のプロセスを適切にハンドリングする以外に経営側と社員、双方にとって最適な方法はない。残業申請も時間単位での有給休暇取得も、申請と承認のプロセスを明確にすることが最も重要なのだ。リモート勤務により、制度構築の良しあし以上に、上司と人事部のプロセスハンドリング力が問われている。