久夛良木氏のポリゴン技術は、ゲーム業界に全く新しいリアリティのある映像を持ち込んだ。しかし、ゲームソフトを開発するのはサードパーティのソフトウエアハウスであり、彼らがソフトを供給してくれなければ、ゲーム機はタダの箱である。

 プレイステーションのもう1つの成功は、それまで旧態依然としたゲームメーカー、ソフトウエアハウス、おもちゃ問屋、小売店の関係性を改め、かつてファミコン時代に見られた抱き合わせ販売のような、サプライチェーンの一部にしわ寄せが行くビジネスの慣行を改善し、ゲーム機メーカー以外のソフトウエアハウス、流通も含めて、全ての事業者に利益をもたらすサプライチェーン改革をしたことによって、サードパーティがソニーの味方についてくれたことが大きかった。

 ソニーミュージックには「丸山学校」という、ソニーミュージック流の経営を学ぶ勉強会があったそうだが、同社のこうしたビジネスの能力もまたソニーグループの大切な資産であり、ソニーグループが全社の資産を上手く使いこなすことが今後も求められる。本業ではないから切り捨てるという発想は、イノベーションを阻害する。ソニーグループの強みは一見シナジーがないように見える様々な業種の集まりであることだと、イノベーション研究を本業としている筆者は見ている。

パナソニックの問題は
V字回復でもてはやされたこと

 これまで、パナソニックとソニーを同列のように論じてきたが、「ソニーの経営は今絶好調なのに対し、パナソニックは不調であり、比較になっていないのではないか」との批判があるかもしれない。しかし、パナソニックの津賀社長やソニーの平井社長がそれぞれ就任した2010年代の始めは、両社の立場を入れ替えて、同じことが言われていたのを忘れてはいけない。

 パナソニックの現在の問題の1つを遡るとすれば、2010年代の始めにV字回復をして、メディアにもてはやされたことにあるのではないかと筆者は考える。同様に、当時V字回復した企業にシャープがある。パナソニックやシャープがV字回復する中で、ソニーだけが経営の回復が遅れ、メディアからは「さよならソニー」「ソニーだけが凋落」と揶揄された。当時の平井社長については「レコード屋の兄ちゃんにソニーの経営は無理」とまで罵る記事も多く見受けられた。