経営会議には常にGCが出席する

日置 そもそも法律の専門家ではない法務チームが、外部の専門家をどこまで使いこなせるのかという疑問もあります。さすがにいまは減っているはずですが、ひと昔前までは米系の大手法律事務所などから多額の報酬を請求されても、向こうは訴訟社会だからこんなもんだろうなんて、よくわからない理屈をつけて言われるままに支払うケースもあったと聞きます。

後藤 ある弁護士について1日24時間を超す報酬がチャージされていて、おかしいと思って確認したら、時差の関係で日本でまず12時間、その後アメリカ行きのフライトの搭乗中も執務しつづけ、到着後の執務時間も併せて15時間仕事をしたことになっていたという笑い話があります。欧米の法律事務所にとって日本企業が良いお客さんであることは確かでしょう。

 欧米では、外部の法律事務所を起用する場合は、自社固有のアウトサイド・カウンセル・ポリシーに基づいて、請求内容が自社の基準にあっているかどうかを厳しくチェックするのが一般的です。

 たとえば、請求の対象にならない、つまり払わない対象としてこうしたポリシーに典型的に記載されるもとのとしては、1年生の弁護士の時間、事前の承諾がないのに会議に参加した2名を超える弁護士の時間、実際に仕事した時間以外の単なる飛行機その他の交通手段による移動時間、ファイリングのための秘書の残業代、受任の可否を決める際に必要な利益相反の有無のチェックのための時間等があります。また、CSRの一環として、性別や人種などの多様性を確保することに同意する、という項目があることも当然です。

 私自身が作ったアウトサイド・カウンセル・ポリシーでは、こちらが指定した、案件ごとの固有のコードを請求書に記載しておくことを世界中の外部の法律事務所に義務づけています。こうしておけば、外部法律事務所のリアルタイムでの管理のためのグローバル規模での統一のITシステムが導入されていなくても、少なくとも請求書を受け取った案件については、事後的に、グループ内でどんな問題が起きていて、どこのファームと契約していくらかかったのかを容易に検索することが可能になり、グローバルで一元的に把握できるし、拠点や事案ごとの矛盾やダブりもチェックできます。

日置 それは面白いですね。外部の法律事務所との関係をグローバルで管理するのは本社の法務の仕事のはずですが、それができている日本企業の法務部は多くはないかもしれません。

後藤 アメリカではそのための専用システムがあり、大手企業の多くが導入しています。法律事務所はそのシステム経由でその依頼者(企業)のアウトサイド・カウンセル・ポリシーに準拠した方法でしか請求書を発行することがそもそもシステム上できません。準拠していなければ請求書がシステム上自動的にはねられてしまうので、法律事務所としては、回収するためにはシステム上の要請に従う以外にないのです。

 いったん法律事務所からの請求書が届いた後、依頼企業側で、たとえば法務部員が請求の内容を精査して文句を言う、というプロセス多くの部分が自動化されています。ある意味で、請求書を作成し、発行し、依頼者がこれを精査し、支払処理に回す、という一連のプロセスにおける人間の時間という負担の多くを法律事務所側に転嫁するようなものです。

 同種のシステムは複数の会社から提供されており、日本の大手法律事務所も、欧米の大企業を依頼者にするときにはこれに従わざるをえないので、この経験があるはずですが、日本の企業はこれをしないので、旧態依然の請求書を依然として依頼企業に送り続け、企業の側もそのチェックをたとえば企業内弁護士の時間をかけて行っているのが実情です。

 システムは決して安価ではありませんが、グローバルレベルでのトータルの外部法律事務所のコストがある規模を超える企業であれば、システム導入によるベネフィットはシステム導入と維持のコストをはるかに上回るはずです。

 このようなシステムに比較すると、案件ごとの固有の指定コード請求書に記載してもらい検索しやすくする、というのは極めてアナログではありますが、コストをかけなくても工夫次第で法務の高度化はできるという一例です。

日置 予算不足は言い訳にはならないということですね。人材面でも、司法試験の合格者が増加したおかげで企業への就職を志望する弁護士も増えているので、少なくとも数の上ではワールドクラスに近づく素地はできつつあります。

 ただ、かたちだけ整えても世界基準のリーガルのあり方を知らなければ、事態は変わりません。これは法務部門だけの話ではなく、コーポレートを経営の中にどう位置づけるかという問題です。

後藤 そうですね。たとえばM&Aで、法務が先ほどお話ししたような役目を果たすには、少なくとも経営会議には常にGCが出席していなければなりません。その前提として、先ほど申し上げた通り、人事、ファイナンス、法務のそれぞれのトップがそれぞれの分野の専門家としての実質を備えた真のCxOであってそうした人たちが経営会議の必須のメンバーになっていることが必要です。日本の企業はそうした基本的な仕組みから変えていく必要があると思います。

(続)