名医やトップドクターと呼ばれる医師、ゴッドハンド(神の手)を持つといわれる医師、患者から厚い信頼を寄せられる医師、その道を究めようとする医師を取材し、仕事ぶりや仕事哲学などを伝える。今回は第35回。「痛みの研究者」として世界的に知られ、慢性的な痛み(慢性疼痛)のスペシャリストである牛田享宏医師(愛知医科大学医学部教授)を紹介する。(医療ジャーナリスト 木原洋美)

ケガをしていなくても痛がる
世界初「痛がり動物」の実験

牛田享宏愛知医科大学医学部学際的痛みセンター・教授(センター長)牛田享宏(うしだ・たかひろ) 愛知医科大学医学部学際的痛みセンター・教授(センター長)、愛知医科大学病院痛みセンター 部長、運動療育センター センター長 Photo by Hiromi Kihara

 今からおよそ25年前、当時29歳だった牛田享宏医師は、留学先のテキサス大学(米国)で「従来の痛みの概念」を覆す発見をした。

 その発見は、CRPS(複合性局所疼痛症候群)のメカニズムを解明するための実験によってもたらされた。CRPSは、1994年に国際疼痛学会によって「骨折などの外傷や神経損傷の後に疼痛が遷延する症候群」と定義された疾患だ。

 遷延(せんえん)とは長引くこと。つまりCRPSは、ケガやなんらかの原因により神経が傷ついた後に、痛みが慢性的に続く症状を指す。その「痛み」は、きっかけとなったケガや神経損傷と不釣り合いなほど重度であったり長期間続いたり、あるいは無関係の部位が痛んだりすることもある。