なぜ4月の時点で
会社の清算を決めたのか
――売り上げにコロナの影響が出始めた3月初めごろから、4月下旬に廃業の決断をされるまでの間には、どんな心境の変化がありましたか。
最初はなんとか終わってくれ……という気持ちが大きかったです。売り上げの大幅な減少も信じられない気持ちが強かったのですが、3月下旬以降は、これが現実だと冷静に受け止めていました。
――4月下旬に経営している5店舗を閉店し、会社を清算することを決断しました。なぜこの時期に廃業を決断したのでしょうか。
4月時点では、近いうちに収まるのではないかという楽観的な雰囲気もありました。ですが、周りの経営者などからコロナの影響に関する情報収集をした結果、収束までには1年ほどかかるのではないかという見方をしている人が多かった。であれば、1年先のことを考えて会社経営をしていかなければならないと思いました。
その上で、自社の経済的状況を見ると、1年間、今の資金でやっていくのは厳しいという答えが出ました。2月時点で会社の現預金は約2500万円でしたが、3月時の売り上げを踏まえて計算すると6月末には約1500万円まで減ることが予測できました。借り入れをしなければ、年内に倒産する可能性が高い。
一方で、もし事業を続けていくのであれば、新しくお金を借りて資金を蓄えた上で乗り切る方法を選ぶことになりますが、そうなると、お金をどうやって返していくのかという話になる。もともと銀行からの借り入れによりスピード感を持って会社を拡大してきたこともあり、財務体質的には弱い状況でした。当時も店舗拡大や改築のために約9000万円の借り入れをしていました。コロナ禍で返済の見込みも立たない中で、借金ばかりが膨らむことには大きなリスクがあると考えました。
そうした背景もあって、4月の時点で会社を畳む決断をするのが正しいというか、畳むことが一番被害を少なくする方法だという結論に至ったのです。
また、社員や取引先など、関係者のことを考えての早期決断でもあったと思っています。銀行から資金を借りて1年間経営を続けるということもできますが、その先には従業員に対して給与が払えなくなってしまったり、取引先に対してお金を払えなかったりというような未来が待っているのかもしれない。それは避けたい、という気持ちが自分の中にありました。