総予測#55Photo:Chesnot/gettyimages

デジタル市場の支配者として君臨する米巨大IT企業を規制する動きが活発化している。フェイスブックやグーグルが提訴された一方、先手を打って改善に取り組み、批判をかわそうとする動きも始まった。特集『総予測2021』(全79回)の#55では、「GAFA解体」を巡り対立する米規制当局とGAFAの攻防戦を追った。(ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)

「週刊ダイヤモンド」2020年12月26日・2021年1月2日合併号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は原則、雑誌掲載時のもの。

アップルが“虎の子”をオープン
クローズ戦略から方針転換

 ついに米アップルが門外不出の虎の子をオープンにした――。

 12月1日、米アマゾン・ドット・コムのクラウド事業AWSが最新の取り組みを披露する開発者向けイベント「re:Invent」が始まった。

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、会場を米ラスベガスからオンラインへと移したイベントの幕開けとともに発表されたのは、アップルの基本ソフト「マックOS」をAWS上で動かすことができる新サービス「EC2 マックインスタンス」である。

 アマゾンの他、米マイクロソフトや米グーグルなどがしのぎを削るクラウド事業。ただし、これまでクラウド上で利用できるOSはリナックスやウィンドウズが中心で、アップル製品の“思考回路”ともいえるマックOSを動かすサービスは実現していなかった。

 このためiPhoneやiPadなどアップル製品向けのソフトウエアを作りたい開発者たちは、開発したソフトが正常に動作するかどうかを確認するために、実機を使う必要があった。最新の端末を購入し、アップデートに対応する作業は費用も手間もかかる。それが今回のサービスの登場で、ソフトの開発から動作検証までがAWS上で可能になるのだ。

 サービスを先行利用し、イベントに登壇した米会計ソフト大手インテュイットのプラティク・ワドハー製品開発担当バイスプレジデントは、「開発効率が最大で30%向上した」と笑顔を見せた。

 今回AWSは力業でこのサービスを実現した。アップルのパソコン「Mac mini」を大量に購入し、クラウド上で動作する環境を整備したのだ。イベントでは、トラックのコンテナいっぱいに積まれたMac miniの前でポーズを取るAWSの幹部の動画も公開された。

 AWSはアップルからパソコンを何台購入したか明らかにしていない。ただし、サービスを利用できる米国と欧州など5地域のデータセンターには「Mac miniが積み上がっている」(AWSジャパンの瀧澤与一技術統括本部長)。

 加えて、アップルが独自開発した半導体「M1」を搭載したMac miniにも2021年に対応する予定だ。アップルの20年9月期のiPhoneの売上高は、前年同期から3%減の1378億ドルで頭打ち。一方、Macの売上高は同11%増の286億ドルと伸びており、アップルはアマゾンというパソコンの大口顧客をつかまえたことになる。

 それにしても、なぜアップルはマックOSの門戸を開いたのか。