「GAFA解体指令書」を作成した米議会下院の小委員会は、16カ月の調査で約129万点もの膨大な資料をかき集めた。メールや議事録など公開された一部の資料には、GAFAの幹部たちの生の声が記録されている。特集『世界が変わる GAFA解体指令』(全11回)の#9では、本来ならば社外秘でお目にかかれない資料を通じ、GAFA中枢の頭の中をのぞいてみよう。(ダイヤモンド編集部 大矢博之)
ザッカーバーグCEOの「インスタ脅威」論
メールが裏付けた競合つぶしの買収劇
「最近考えているビジネス上の問いは、競合するモバイルアプリの買収に、幾ら払えばよいかだ」――。
2012年2月27日午後11時41分。米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)は、当時CFO(最高財務責任者)だったデビット・エバースマン氏にこんな書き出しのメールを送った。
ザッカーバーグCEOが“買収候補筆頭格”として挙げていたのは米インスタグラム。ユーザー約2000万人を抱え、さらに急成長中だった。ほかにも数百万人のユーザー規模で従業員が10~25人と少人数、かつ収益ゼロの企業をリストアップしていた。「ビジネスは始まったばかりだが、ネットワークが確立しており既にブランドに意味がある。大規模に成長した場合、われわれにとって破壊的(disruptive)な存在になり得る」とメールで言及している。
その上で、創業者たちはフェイスブックの成功に刺激を受けているため簡単には買収に応じないだろうという私見を披露しつつ、「5億ドルや10億ドルという十分に高い価格ならば考慮せざるを得ないはずだ」とし、どう思うかをエバースマン氏に問うた。
12月9日、米連邦取引委員会(FTC)と全米各地の州政府は、日本の独占禁止法に当たる反トラスト法違反の疑いでフェイスブックを提訴。12年と14年に買収したインスタグラムと米ワッツアップの売却を求めた。というのも、SNSを支配するフェイスブックが、潜在的な脅威を排除して自らの地位を維持することが買収の目的だったと判断されたからだ。
買収の目的は「競合つぶし」――。米当局のこの見解を裏付ける証拠であり今後の訴訟で強力な武器になるのが、「エバースマン・メール」と呼ばれるザッカーバーグCEOとエバースマン氏のメールでのやりとりだ。
「GAFA解体指令書」。本特集でこう呼ぶ米議会下院の小委員会が10月に公開した報告書の作成に当たり、小委員会は16カ月にわたる調査の過程で、約129万点もの膨大な資料をかき集めた。そこではメールやチャットのやりとりなど、通常ならば社外秘で見ることができないGAFA中枢の本音が克明に記録されている。
エバースマン・メールはその代表的な資料だ。メールには続きがある。