ステップ4:アルゴリズムを使用し、各人に最適なテクニックを提案する

 企業はすべてのリーダー候補を査定し、各候補ごとに上位2つの役割能力が等しい優秀なリーダーを探し、そのリーダーと同じ行動を各候補に提案すべきである。

 私たちのアルゴリズムは、日々蓄積されるコンセプトとイノベーションと行動のデータベースを活用し、それらを各リーダーが試せそうな一連のテクニックとして提案している。提案を受けるリーダーは、自分に「似ている」他のリーダーが活用できたテクニックだけを提案されるため、真正さを保ったまま創造性を高めることができる。

 結果がすぐに表れることもある。アトランタにあるハンプトンの総支配人であるケビンは、同ホテルの主要指標の1つでSALT(サービスおよびロイヤルティ追跡)と呼ばれる顧客満足度指標にたちまち効果が表れたことに気がついた。管理・フロント業務の各チームに所属する各個人の強みを評価し、それぞれにふさわしいテクニックを提案したところ、全体的なサービスのSALTスコア上昇率は3.7%だったのに対し、フロントの応対が役立ったかどうかを示すSALTスコアは4.8%上がったのである。

 新しい知識は補強しなければ消え去ってしまう。これを熟知するフィル・コーデルは、私たちとハンプトンのブランド・チームに対し、ハンプトンの1850カ所のホテルにおいてリーダーシップの学習を持続させるよう課題を課した。そのためにノートPCやタブレット端末、スマートフォンなどで使えるウェブ・アプリケーションを開発しろと言う(フィルの最も顕著な役割能力が「開拓する人」なのはさほど驚きではない)。このアプリは、トップ・レベルの業績を上げた総支配人たちから他のリーダーに対して、動画やテキストの形式で新しいテクニックを週2回提案するものである。

 私たちはこのアプリを作成するに当たり、いくつかの原則を設けた。すべてのコミュニケーションを以下のようにしたかったからだ。

●簡潔にする

それぞれのテクニックを短い文章で紹介する。識者のなかには、お知らせやアップデートやツイートに世のなかが魅了されるという状況は有害であり、集中力が低下し、注意力の持続時間が短くなると考える人もいる。しかし私たちは因果関係の方向が逆だと考えている。すなわち、人々がお知らせやアップデートやツイートを好む理由は、まさに脳が持続的なインプットよりも短く繰り返される刺激のほうに注意を向けるようできているからなのである。

●パーソナル化する

このアルゴリズムを使用すれば、紹介されるテクニックのほとんどは、それを受け取る人と似た強みを持つリーダーから抽出されるようになる。とはいえ、時には異なる種類の強みを持つリーダーのテクニックをアプリが紹介することがある。これは、サプライズを加えると同時に反響室効果(注3)を防ぐためである。

【注】
3)組織内で似たような意見ばかり出るようになると、互いに増幅し合ってその意見一色になり、反対意見が出なくなること。
 

●双方向性を持たせる

従業員はあるテクニックを提案された後、それを「却下」または「保管」できる。却下されたテクニックは消去され、保管されたテクニックは自分でつくったアイデア金庫に入る。この金庫には無限に保管でき、自由な構成が可能で、後で使いたいテクニックを「お気に入り」にすることもできる。

 もしあなたがハンプトンのチームのメンバーなら、毎週火・木曜日に新しいアドバイスがアプリによってあなたのメール・ボックスに届けられる。そこであなたは、それにどう対応するかを決めることになる。すぐに実践に移すこともできる。デイビッド(主な役割能力:「助言する人」)が最近受け取ったアドバイスは、「文化の違いは折り合いが悪いことの言い訳にはならない。人は関係がぎくしゃくすると、それを文化のせいにしがちである。しかし往々にして、問題ははるかにシンプルで現実的なことと結びついているものだ。人々を再び話し合いのテーブルに着かせ、ともに問題を解決せよ。あなたはこの種の現実主義において優れた能力を示すだろう」というものであった。折しも、デイビッドはチーム内の扱いにくい問題を避けていた。このアドバイスにはっとした彼はリーダーとしての自覚を強め、いかに一致団結して前進するかについてチームに呼びかけた。

 アドバイスがあまりに強く胸に響くため、その文言をタトゥーとして自分の額に刻み込みたいほどの場合もあるかもしれない。ジーン(主な役割能力:「刺激する人」)が受け取ったのは、「あなたの雰囲気がオフィスの空気を決める。あなたがよい1日を過ごしていれば、だれもがそれを感じ取って活気づく。そうでない日は逆のことが起きる。あなたが周囲の人々を気落ちさせるのだ。そんな日は、それをごまかさないこと。ごまかそうとしてもだれもだまされない。代わりに、休憩を取ってオフィスを出るか、エネルギーが再び充填されるまでドアを閉めて自分の部屋に閉じこもっていよう」というアドバイスであった。ジーンはどう反応したのだろうか。「私はそれを『保管』して、いつも見ていました」と彼女は言う。「朝一番にそれを画面に表示します。自分が部下たちの気持ちに大きな影響を与えることを常に思い出す必要があるのです」

ステップ5:システムの知性を動的に保つ

 個人に合わせたアルゴリズムという考え方には、時間が経つほど相手をより深く知らねばならないという意味合いが最初から含まれている。アプリはあなたとやり取りするたびに、あなたのリーダーシップの特徴をより詳細に書き加えていく。受け取ったテクニックの効果をあなたが採点するたびに、システムはあなたの反応を追跡し、あなたにどのテクニックを提案すればよいかをより賢く選択できるようになる。扱うリーダーやテクニックの数、およびそれらへの反応などのサンプル数が大きくなるにつれ、この双方向のコミュニケーション・チャネルの性能は向上し、相手に最もふさわしいコンテンツを提供する精度は、巷の消費者向け推奨エンジンで最良のものと同レベルになるはずである。

 このシステムはまた、システム自身についても賢くなっていくはずである。システム利用に関するデータが蓄積されるほど、数多くの重要な問いに答えられるようになる。たとえば、最も有能なリーダーたちは、他の人よりアドバイスを保管することが多いのか少ないのか。動画と音声とテキストのうち、どの形式のアドバイスが最も「お気に入り」にされる傾向にあるか。役割能力によってこうした質問に対する答えは異なるのか。たとえば、「開拓する人」は動画を好み、「バランスを取る人」はテキストによい反応を示す、といったように──。この原稿を執筆している時点で、スタンドアウトのウェブ・アプリケーションは個人に合わせてつくられたアドバイスを1万2000件以上配信している。それらに対する反応から、役割能力グループで見ると、最も多くのアドバイスを保管したのは「教える人」、最も少ないのは「影響を与える人」であることがわかっている。このようなデータは現在進行中の研究に欠かせない。

 さて、ここまではヒルトンで実施された各ステップについて解説してきた。私たちは現在、このモデルを他の組織にも応用しているところだ。そこではステップ5までは手早く進めることにしている。そしてステップ5の段階になると、最も優れたリーダーたちへの聞き取り調査を行うことでアドバイスの原材料を仕入れ、他のリーダーたちへ提案中のアドバイスにこれらを加える。そしてこれらの新たなアドバイスに対する各リーダーの反応を学ぶことで、このリーダーシップ・アルゴリズムにはますます磨きがかかるのだ。あなたも自分の組織でこのモデルを採用すればわかるはずだが、ステップ5はそれ自体が新たなステップのスタートであるかのような性質を持つことがわかってきた。同僚同士での情報共有を利用した、動的な知性を持つこのシステムの力は、現在普及しているリーダーシップ開発モデルを完全に凌駕している。