「あなた」のアルゴリズム

 これは私が先に挙げた2つ目の条件に関わってくる。「2つの条件が当てはまるなら個人に合わせたリーダーシップ開発を行うべきだ」と述べた際に挙げた2つ目の条件である。1つ目の条件は、リーダーシップは本当に人によって異なるのかどうかに関するものであった。これについては納得していただけたことと思う。2つ目の条件は、多くのリーダーを育てようとする企業が、多様なリーダーシップのすべてのスタイルを扱うことが現実的かどうかである。この条件についてはどうだろうか。

 ここ数年、多くの組織がまさにそれを始めている。ヒルトン・ワールドワイドのさまざまなブランドであるハンプトンやホームウッド・スイーツ、ヒルトン・ガーデン・イン、ホーム2スイーツなどの取り組みはその好例である。これらのブランドを統括する責任者であるフィル・コーデルは、他の多くのトップ・リーダーたちと同じように、ある不都合な真実に気づいていた。自分の配下の優れたリーダーたちが、互いにまったく似ていないということだ。しかし、彼を含めた首脳陣は、このリーダーたちが共通の性質を持ついくつかのグループに分けられることも見抜いていた。つまり、似たようなリーダーシップのスタイルを持ち、同じ種類のトレーニングや互いの仕事ぶりから有益なことを学べそうなリーダーたちに分類できたのである。

 フィルのチームは私の会社と協力し、5つのステップから成るプロセスでそれを実際に行い、大いに役立てた。このプロセスを以下で詳しく説明しよう。リーダーシップ開発のアルゴリズム・モデルをつくることに関心を持つどの組織にとっても参考になるだろう。

ステップ1:アルゴリズムによる評価方法を選択する

 〈ネットフリックス〉には映画クイズがあり、『ニューヨーク・タイムズ』紙は独自の推奨エンジンを持つ。個人に合わせたリーダーシップ開発プログラムを実施するには、各人のリーダーシップのタイプを特定するためのツールが必要となる。このタイプがフィルターとしての役目を果たし、リーダーシップ開発の内容のすべてとはいわないまでも一部分は、タイプごとに選別されて提供されることになる。

 そのツールとしては、マイヤーズ・ブリッグス・タイプ指標、DISC、ハーマン脳優勢度調査など既存の性格指標を使用してもよいし、独自の指標をつくってもよい。私たちの研究では、独自に作成したオンライン能力評価ツール「スタンドアウト」内でアルゴリズムを設計した。スタンドアウトは状況判断テストで、一連の状況で自分がどのような反応を取る可能性が最も高いかを答えるものである。この種のテストは行動に焦点を当てるため、さまざまな性格について被験者に自己採点させるテストと比較して、自分が他人にどのような印象を与えるかをとらえるのに優れている。私たちはスタンドアウトを作成するに当たり、43万人を超える人を対象に意識調査を行ったが、その全員についてその後のパフォーマンスに関するデータも得られることになっていた。

 私たちの分析の結果、この数十万人に及ぶ人々が示したさまざまな行動は、「刺激する人」「教える人」などの9つの「役割能力」(strength role)のカテゴリーに分類できることがわかった。これらのカテゴリーは、いくつかの特定の強みが1人のリーダーのなかにどのように集まり組み合わさるか、その最も一般的なパターンを示したものである。

ステップ2:社内の優れたリーダーにこのテストを受けさせる

 私たちは、ヒルトン・グループの総支配人クラス(ゼネラル・マネジャー)上位10%から選抜した150人にスタンドアウトを受けてもらった。すると、「リーダーシップ開発の定型モデル」という考え方とは相容れない結果になった。すべてのリーダーが上から1、2番目の役割能力を共通して持つという結果にはならず、9つの役割能力すべてにわたって広く分布していることがわかったのである。

 このパターンは同社だけの特例ではない。マイクロソフト、コールズ、ハビタット・フォー・ヒューマニティ・インターナショナルなどのリーダーにも同様の分布が見られ、また、アメリカ・インデペンデント・スクール協会に所属する校長にも同じ傾向が見られた。私たちはヒルトンで、傑出したリーダーを各カテゴリーから複数選び出し、何が彼らの成功をもたらしたのか、その要因を調べることにした。

ステップ3:リーダーたちの代表例と面接し、そのテクニックを見つける

 役割能力の異なるリーダーたちは、同程度の成功を収めていたとしても、その手法が大きく異なっていた。ペンシルバニア州でハンプトン・イン・アンド・スイーツを運営するダイアナは、彼女が従業員に示してほしいと思う行動や態度を象徴するマスコットを使うこと、そして従業員をその下に結集させることがカギだと言う。彼女が選んだマスコットは亀だ。「(首を外に出して)リスクに臨まなければ何事も前進しないから」と彼女は説明する。「1人に1つの目的」という意識を従業員に植えつけることが決定的に重要だという。彼女がそう言うのも頷ける。スタンドアウトの結果から、彼女が「刺激する人」であり、エネルギーや興奮やドラマを創り出す傾向にあることが明らかになっているからである。

 タイムズスクエアにあるヒルトン・ガーデン・インの総支配人であるティムは、圧倒的に「教える人」である。彼のテクニックの1つは、ホテルで従業員向けの貸出図書館を運営することだ。従業員全員に、フィクションかノンフィクションかを問わず、毎月1冊の本を寄付するよう求めている。ティムは本当の教師と同様に、継続的な学習の価値を認めている。

 接客業のように能動的なサービス中心の仕事では、毎日新しい問題に出くわす。ティムは図書館を運営することによって、「従業員はホテル業務に関する自分の知識を互いに共有してもよい。むしろそうあるべきだ」というメッセージを暗に送っているのである。

 メラニー(主な役割能力:「提供する人」)は、ノースカロライナ州ウィルミントンで自分が運営するホテルにおいて、従業員との「給与ランチ」を隔月で行っており、その効果を確信している。このランチの目的は、チームのメンバーが互いのどのような点を感謝し評価しているか、詳しく話し合うことにある。メラニーは手本として率先して会話に参加する。ランチの終わりに彼女は皆に給与を配るが、それは契約に基づく報酬というよりも、むしろ彼女の感謝の気持ちを形にしたもののように感じられる。

 最後はスティーブ。トロント空港にあるヒルトン・ガーデン・インの総支配人である。彼にダイアナやティムやメラニーのテクニックを試すようお願いしても成功しそうにない。スティーブが頼りにする信条は「3と2の法則」である。これは、宿泊客からの意見・要望を1日に3回チェックし、よいコメントでも悪いコメントでも、すべてのコメントに2時間以内に対応するというものである。スティーブは「バランスを取る人」である。彼の最も効果的なテクニックは常に、システム、規則、公正さ、物事の正しい遂行を中心に展開するのだ。

 ここで紹介したテクニックは、どの標準業務手順のマニュアルにもいっさい書かれていない。そして、すべての人にこのテクニックを使うよう指示することは間違っているだろう。しかし、「一部」の管理職は上記テクニックの「一部」を使うことでメリットを得られる可能性があるし、またそれらを改良して自分独自の効果的なテクニックを生み出すかもしれない。ここでの課題は、成功したリーダーが実践したことを、似たような役割能力を持つ発展途上のリーダーにどう伝えるかである。