『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』の著者ヤニス・バルファキス元ギリシャ財務相による連載。今回の主題は、トランプ前大統領に悪用された経済学をめぐる不都合な真実です。バイデン政権下でホワイトハウスが「経済の真実」を明かすようになると考えるのは早計だと筆者は指摘します。
ドナルド・トランプ前大統領と対立する人々は、彼を「嘘つき」と呼ぶ。だが、トランプ氏はただの「嘘つき」よりはるかに悪質だ。
多くの政治家は不都合な真実を隠すために嘘をつくが、トランプ氏は目を覆いたくなるほどのデタラメの連続の合間に、他の大統領なら決して認めなかったような真実を織り交ぜる。グローバリゼーションは疑いようもなく有益であるという支配的な見解を否定したかと思えば、民主党支持者による投票を困難にするために米郵便公社の予算削減を試みたと認める、といった具合に。
科学者がトランプ氏の退陣を祝福するのはもっともである。ようやく報復を恐れずに疫学的データをホワイトハウスから発表できるようになり、彼らが安堵しているのは明白だ。しかし、ジョー・バイデン新大統領のもとで真実が全面的に復活するのかを判断するためには、そもそもわれわれの社会がどのようにして真実を判定しているのかを思い起こす必要がある。
リベラルは、市場に例えることを好む。ガジェットと同様、さまざまな意見が広大な言論の市場を流通し、見解やニュースの消費者・生産者を含む非集権的なプロセスを通じて評価される。そして、正しい意見が誤った意見に勝利する。
だが、残念ながら、この「言論の市場」そのものが一つの虚構である。