高インフレ再現は決して杞憂ではないと筆者は警鐘を鳴らす Photo:REUTERS/AFLO

 50年前、米国にとってマクロ経済における最大の問題はインフレ率の高さだった。1970年代の平均インフレ率は6%を超え、70年代末には実に10%にまで上昇した。そこに登場したのが、1979年にジミー・カーター大統領によって任命され、さらに1983年にロナルド・レーガン大統領によって再任されたポール・ボルカー連邦準備理事会(FRB)議長である。

 1981年、ボルカー議長が高金利政策によってインフレを打破したことはよく知られている。リセッションに臆することなく高金利政策を貫いたことにより、金融市場、企業、家計は、FRBが安定した低インフレを維持するために必要であれば手段を選ばない、と納得したのだ。

 金融政策担当者トップによるこうした力強いコミットメントは、それから長い年月を経て、マリオ・ドラギ氏にとって模倣すべき先例になった可能性がある。ドラギ氏は、欧州中央銀行(ECB)総裁(任期:2011年~2019年)を務めていた2012年、ユーロを守るために「手段を選ばない」と約束した。この任務で成功を収めたことが、ドラギ氏が先日イタリア首相に就任する理由となったことは明らかである。

 ボルカー氏が残した遺産で重要なのは、1990年代以降、長期インフレ予想を年約2%という低い数値にアンカー(安定化)したことである。このアンカーによってインフレ率は平均約2%を維持し、実際の物価安定へと結びついた。

 長期インフレ予想に関する信頼を確立したことにより、FRBはまもなく、短期的な政策の面で多くの余裕を得ることになった。つまり、長期的な信頼を損なうことなく、名目短期金利やマネーストックを調整できるようになった。例えば、長期にわたって名目短期金利をゼロに近い水準に抑え、バランスシートを急激に拡大し、その一方で、長期的には低いインフレ予想という重要なアンカーを維持し続けたのである。

 残念ながら、このボルカー議長の遺産である「評判資本」は今、無謀な金融政策・財政政策によって脅かされている。今日のFRBのバランスシートは何の制限も守っていないようであり、対国内総生産(GDP)比で見た財政赤字は、平時としては前例のない水準で推移している。

 FRBは今、「FRBが何をやろうと長期インフレ予想には影響を及ぼさない」という信頼感を、いや、むしろ自信過剰をばらまいている。なるほど、いずれにせよFRBは年1.5%前後というインフレ率を、2%近くの目標に向けて上昇させたがっている。だがFRBは、目標を下回る現在のインフレ率を気にするよりも、長期インフレ予想が急上昇する可能性を心配するべきなのだ。