ワクチン成否は「有害事象」への対応が鍵
感染者が少ないことでかえって難しいかじ取りが求められる

瀬名 メディアには出ていないけど、黙々と現場で頑張っていらっしゃる医療従事者の方に改めて敬意を表したいですね。今はワクチンを待つ状況なわけですが、日本でコロナワクチンの接種は順調に進むでしょうか。

西村 よく「副反応」(ワクチン接種と因果関係がある有害な症状)が取り沙汰されます。世界中で接種が始まりましたが、治験も含め本当に重大な副反応はこれまでのところほとんど出ていません。

 問題は、有害事象(ワクチン接種直後に起こった有害な症状全て)、つまり“紛れ込み”への対応です。これをどう処理するかで、ワクチンの成否は決まってくる。

 高齢者の接種が始まり、何百万、何千万もの人が打つようになれば、その翌日に死亡したという例がそれなりに出てくるでしょう。間違いなく出る。

 今から「偶発的にそういうこと(接種した次の日に亡くなる)は起こり得る」とアナウンスしておけば済む話ではありません。遺族は必ずマスコミに話しますし、実録話が積み重なれば接種率はいつまでも上がらないわけですが、その辺りをどう処理するか、行政が真剣に考えているようには思えませんね。

瀬名 確かにそうですね。

西村 本来、公衆衛生としてのワクチン政策は、予想し得る全ての問題を勘案して戦略的にやるべきです。例えば有害事象が起こるリスクが高い高齢者ではなく、集団免疫形成を目的に、あえて若年成人層から優先的に接種を進めていくとか、いろんな選択肢を踏まえた議論をしなければならない。

 日本が流行を比較的抑えられていることも、ワクチン政策を難しくするかもしれません。欧米のような流行状況なら迷わず他人にも接種を勧められるのですが。もちろん僕は躊躇なく打ちますけどね。

Key Visual by Noriyo Shinoda

【瀬名秀明(せな・ひであき)】/作家。1968年静岡県生まれ。薬学博士。90年東北大学薬学部卒業。96年同大学院薬学研究科博士課程修了。95年に『パラサイト・イヴ』で第2回日本ホラー小説大賞、98年に『BRAIN VALLEY』で第19回日本SF大賞を受賞。感染症関連の著書も多い。近著に『ポロック生命体』(新潮社)、『パンデミックとたたかう』(共著/岩波書店)、『ウイルスVS人類』(共著/文藝春秋)。現在、「週刊ダイヤモンド」の書評欄「オフタイムの楽しみ〈サイエンス〉」、「東北大学新型コロナウイルス対応特別研究プロジェクト」にて連載中
【西村秀一(にしむら・ひでかず)】/医師、国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター長。1955年山形県生まれ。医学博士。84年山形大学医学部卒業。94年CDC(米疾病対策センター)インフルエンザ部門研究員。96年に帰国後、国立感染症研究所ウイルス一部主任研究官を経て、2000年より現職。『史上最悪のインフルエンザ――忘れられたパンデミック』(みすず書房)など訳書多数。近著に『新型コロナ「正しく恐れる」』(藤原書店)。『現代語訳 流行性感冒 一九一八年インフルエンザ・パンデミックの記録』(平凡社)、『ワクチン いかに決断するか―1976年米国リスク管理の教訓』(藤原書房)の二つの訳書が2月末~3月に発刊予定。