『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』が、16万部を突破。分厚い788ページ、価格は税込3000円超、著者は正体を明かしていない「読書猿」……発売直後は多くの書店で完売が続出するという、異例づくしのヒットとなった。なぜ、本書はこれほど多くの人をひきつけているのか。この本を推してくれたキーパーソンへのインタビューで、その裏側に迫る。
今回インタビューしたのは、発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉氏。小中学校で不登校を繰り返し、高校も落第寸前で卒業したという借金玉氏は、のちに独学で早稲田大学に入学を果たした。同じように学校での学びに困難を抱える小中学生にとって、人生で「大逆転」を果たすのに、独学は格好の切り札になるだろう。その際、本書は強力な武器になると話す借金玉氏に、その活用法を聞いた。(取材・構成/藤田美菜子、写真/疋田千里)
前回記事:発達障害の僕が「勉強が心底嫌いだった子ども時代の自分」に伝えたい2つのこと

買った本は「目次」にだけ目を通す

――読書家としても知られる借金玉さんですが、読書を「独学」に生かすためには、どのような工夫をしていますか?

借金玉 僕は「本だけはいくら積んでもいい」というルールを設けています。

 僕にとって、本とは「未来の自分」のために買うもの。買ったらすぐに、1ページ残らず読まなくてはならないものではなく、しかるべきときにしかるべく読まれるべきものです。なので、そのときが来るまでは積んでいて構わない。

 その代わり、本を買ったらすぐ、目次にだけは目を通します。それで、大まかな内容を掴んでから積んでおく。すると、いざ必要になったときに「そろそろあの本の出番だ」と、ピンと来るんですよ。逆に、目次を読んだだけで「今読んでもわかんないなこれ」もよくあります。

 僕も、大学生ぐらいまでは、家に積んである本はとにかく1冊残らず読了しなければという強迫観念に駆られていました。しかし、おそらくは世界一の読書家であるウンベルト・エーコが、「読み終わった本を本棚に置くことに、なんの意味があるんだ?」みたいなことを言っていて、「それはそうだよな」と思ったんです。それからは呪いが解けて、このスタイルに落ち着きました。まだ読んでない本がたくさん本棚にある、考えてみたらこんな幸せなことってそうそうないですよ。

 目次をなんとなく見るだけでも、この作家とこの作家は影響を受け合っているなとか、この作家とこの作家は時代背景が共通しているなといった「つながり」が見えてきます。目次からすでに「アレはもう読んでるよな?当たり前だよな?」みたいな圧をかけて来る本も多々ある。こういう体験を繰り返すと、自分の中に「本の星座」のようなものができてくるんですよ。

 このつながりがあると、独学するときの理解が圧倒的に早まると思います。

――『独学大全』の中にも、「点の読書から線の読書、面の読書へ」(P382)という提言があります。

借金玉 「文献たぐりよせ」という技法も紹介されていましたよね(P258)。文献のうしろを見て、参考文献同士を接続していく。これはまさに、僕が「読書の星座」と呼んでいるものと同じ考え方だと思います。

 本音を言うと、僕は、こうしたつながりが「たまたま」できていくほうが、絶対楽しいと思っているんです。なので、趣味で読んでいるジャンルについては、わざと脈絡のない読み方をすることもあります。

 とはいえ、「学び」を目的とするならば、やはり概論から入り、歴史という「縦の流れ」を追いながら、「参考文献」という横の流れをたどる形でつながりを把握したほうが、明らかに効率はいいでしょう。

「学問のセットリスト」が手に入る

――『独学大全』に紹介されている技法の中に、借金玉さんが普段使っているものは、他に何かありますか?

借金玉 それはもう、たくさんありますよね。

『独学大全』がすばらしいのは、一般的な「勉強法」の範疇にとどまってないところです。ここで紹介されているのは、いわば「学問」のセットリストなんですよ。大学で体系的には教わらないけれど、学ぶうちに「なんとなく」身につけていく技術。それらが体系化され、言語化されているわけです。

 例えば、大学ではレポートの書き方をあまりきちんと教えてくれませんよね。どうすればいいレポートが書けるのか、そのメソッドを僕自身、かなり苦労して身につけた記憶があります。

 でも、『独学大全』を見れば、「トゥールミン・モデル」という論理構築の技法が紹介されています(P440)。僕が大学時代に習った一番役立つ知識がこれだった気がします。腑に落ちて手が動くまで一苦労はあるでしょうが、これさえ身に着ければレポートは書ける。また、効率よく調べ物をするには、「検索語みがき」(P244)の技法が役立つでしょう。

 これらは、知っている人は当たり前のように使っている技法です。概念的に知らなくても先輩から学び取って使いこなしている場合も多い。でも、人によっては永久にたどりつけないものになり得ます。

 文献を整理するための「引用マトリクス」(P396)の技法なども、これだけ読んでピンと来る人はそういないかもしれません。でも、この概念を持って、実際に論文を当たって参考文献から参考文献へとジャンプを繰り返していると、「ああ、これのことか」と合点がゆく瞬間が訪れるはずです。すると、理解がすっと固まるんですよ。

 通常、ノウハウというものは、なんとなく繰り返しているうちに言語化されていくもので、いきなり「これだ」とたどりつけるものではありません。ですが、この本はそのプロセスをかなり圧縮してくれます。

 独学をずっとやってきた人たちは、だいたいこの形に行き着くというノウハウが網羅されているので、その意味でも「間違いがない」本だと思います。

 我々「独学太郎」たちは大変に気難しくて因業な人間なので(なにせ「独」ですから)、いい加減な内容が書いてあったらすぐ石を投げつけます。「ほう、独学の技法と来たか、それはわしも一家言あるぞ?」って気持ちで読んだ人は僕も含めてたくさんいるんじゃないでしょうか。僕の観測範囲では大体みんな「いい本です」と白旗を上げている様子ですね。

『独学大全』が出ると聞いた時は、「あっちくしょう、そのネタは僕もやりたかった!」と思ったんですけど、この本以上のものはおそらく書けなかったので、今はとても清々しい気持ちです。企画書だけ読んだら「すごいし素晴らしいけど、正気?」って言ってしまう気がする。

学んだら、インターネットに書いてみよう

『独学大全』の使い方で、僕がおすすめしたいのが、学んだことをなんらかの形でアウトプットすることです。

 先日、プログラマーの友人が、こんなことを言っていました。頭の中で思考をこね回したり、あるいはツイッターで適当なことを言ったりするだけでは、フィードバックが足りない。その点、プログラミングがいいのは、「プログラムがちゃんと動く(動かない)」という形でフィードバックが返ってくることだ、と。

 彼の言うとおり、独学で難しいのは、「自分で自分を評価する」ことです。少し間違えると、単なる独善に陥ることだってある。一番よくある形が、「実際は読めていない文献を読めた気になって自己流解釈に陥る」というやつです。その意味で、学んだことを実地(≒インターネット)でアウトプットし、その成果に対してフィードバックを得るというサイクルを構築することは、より着実な成長をもたらすと言えるのではないでしょうか。インターネットはとても親切です。適当なことを言ってるとボッコボコにしてくれる。

 僕自身は15歳くらいからインターネットで文章を発表し、それに対するフィードバックをさまざまな人から得ていたことが、学力の大きな素地になったという実感があります。インターネットは15歳の子どもにも平等に殴りかかってくるのでとても素敵ですよね……。

借金玉(しゃっきんだま)
1985年、北海道生まれ。ADHD(注意欠如・多動症)と診断されコンサータを服用して暮らす発達障害者。二次障害に双極性障害。幼少期から社会適応がまるでできず、小学校、中学校と不登校をくりかえし、高校は落第寸前で卒業。極貧シェアハウス生活を経て、早稲田大学に入学。卒業後、大手金融機関に就職するが、何ひとつ仕事ができず2年で退職。その後、かき集めた出資金を元手に一発逆転を狙って飲食業界で起業、貿易事業等に進出し経営を多角化。一時は従業員が10人ほどまで拡大し波に乗るも、いろいろなつらいことがあって事業破綻。2000万円の借金を抱える。飛び降りるためのビルを探すなどの日々を送ったが、1年かけて「うつの底」からはい出し、非正規雇用の不動産営業マンとして働き始める。現在は、不動産営業とライター・作家業をかけ持ちする。最新刊は『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』。