『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』が10万部を突破! 本書には東京大学教授の柳川範之氏「著者の知識が圧倒的」独立研究者の山口周氏「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せ、ビジネスマンから大学生まで多くの人がSNSで勉強法を公開するなど、話題になっています。
この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

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[質問]
「わからない」と付き合う方法教えていただきたいです

 魔法みたいな本とか方法論なんてないし、結局はコツコツと向き合うしかないということですよねきっと…わかってはいるんですけれど…。わからないことに突き当たってとりあえず簡単に説明してるサイトを探したり図にして理解しようとしたり一応何かするのですが、それで理解できないとやっぱり逃げてしまいます。

 正直に言うとたぶん自分がバカだっていう事実に気付いてながら向き合いたくないだけなんです。悪循環ですよね…。

 それでもやっぱり私は勉強ができるようになりたいです。「わからない」と付き合う方法教えていただきたいです。

「わからないルートマップ」が便利です

[読書猿の回答]
 今回ご説明するのは「わからない」と共に旅するためのルートマップです。『独学大全』にも掲載しました。地図が旅の成果や安全を約束しないように、このマップも理解という成功を約束しませんが、「わからない」と連れそう旅で自分の位置を見失ったり自暴自棄になったりするのを緩和できるかもしれません。

わからないルートマップ

 一口に「わからない」といってもいろいろなので、このマップでは3つに分類し、それぞれで取れる対応法をまとめています。自分がどの段階にいて、目下の「わからない」に対してどんなことができるのか思い出す一助にしてください。

 不明型「わからない」は最も重度なもので、よくいう「何がわからないかもわからない」状態です。

 例えばまったく知らない外国語を前にした時、この状態になります。

不明型の「わからない」の例
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 この場合に取ることのできる対応は、その分からないものを(1)部分に分けて、(2)部分ごとの解釈を仮にでも決めることです。

 知らない外国語の例で言うと、(1)単語らしきものに分けて(分かち書きしない言語ではこれ自体難事業ですが)、(2)その意味を仮に決めることになります。辞書がある場合は、辞書を引いて訳語のひとつを当てはめることがこれにあたります。

 マップの矢印が(1)から(2)への一方向でないのは、部分の解釈によっては、どういった部分に分割するかを変更する場合が出てくるからです。

 不定型「わからない」は、部分部分は理解できなくはない(何らかの解釈ができる)のですが、いろんな解釈があり得えて、そのうちどれが良いか決められないという状態です。

 再び外国語の例で言えば、単語ごとに訳語を当てはめてはみたものの、どうもうまくいかない。なので、それぞれの単語について、いろいろと違う訳語を当てはめながら試行錯誤しているような状態がこれにあたります。

 この場合に取るべき対応は、総じて言えば複雑さをコントロールし、できれば縮減することです。

 その分からないものを(3)部分それぞれの解釈の幅を限定する(絞り込む)ことと、(4)部分間の関係を考え、全ての部分を統合する文脈を仮定することを往復しながら、(5)全体を評価してよりよい解釈の組合せを探すことです。

 再び外国語の例に戻れば、部分の解釈(単語それぞれの意味)と、それを統合した全体の文意は相互依存しています。単語の意味が分からないと文の意味も分かりませんが、一方で何についての文章かという文脈(コンテクスト)が決まらないと、どのように解釈して良いのかが決まりません。

不定型「わからない」の例
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 部分と全体の両方を見ながら、たくさんの組合せを試すこの作業は下手すると組合せ爆発に陥り、我々の限られた認知資源では足りなくなってしまいます。

 解釈の幅をうまく限定しながら、うまくいく解釈(理解)という落とし所を探ることになります。

 不能型「わからない」は、とりあえず解釈(どんな風に理解すれば良いのか)は決まってきたものの、まだ不整合や矛盾するところが残っていて、首尾一貫した解釈(理解)ができていない状態です。

 この場合には、つくった解釈(とりあえずの理解)を一度壊してやり直す必要があります。

 そのために、不定型での対応とは反対に、一旦は縮減した複雑さを敢えて拡大することになります。(6)部分それぞれの解釈を変更することと(7)部分を統合する文脈を変更することを往復しながら、(8)矛盾や不整合のない解釈(理解)をつくりあげていくことになります。

(6)と(7)の往復では、一度手に入れた「分かった」という感じを手放し、再び「分からない」状態に身を投じることになるでしょう。このことは、とりあえずの理解を越えて、よりよい理解へ進むために必要です。

 これは、敢えて複雑さを、解釈の幅と多様性を導入し、目下の理解を揺らし、解体した上で再建する作業が、難事業です。

 しかし、我々の理解は、そうした解体と再建の繰り返しによってわずかながらも、これまで達し得なかった領域に進み得るのです。

不能型「わからない」の例
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