物事や相手のことを知り、学んでいくことが大切

 ダイバーシティ&インクルージョンメディア「オリイジン」では、SDGsを統合する軸のひとつとして「多様性(ダイバーシティ)」を挙げている*13 。「ダイバーシティ」な状態において、「インクルージョン」の方向を持つことがSDGsの理解にも不可欠だが、「インクルージョン」の実現にはどのような姿勢が必要だと佐々木さんは考えているのだろう?

*13 「オリイジン」記事『「ダイバーシティ」は、なぜSDGs実現のキーワードになるのか』参照

佐々木 SDGsをテーマとした「持続可能な育成プロジェクト」以前に、私は、企業のCSRと福祉団体をつなぐ活動をしていました。それもあって、ダイバーシティについては常日頃から意識することが多く、また、SDGsの “誰一人取り残さない”というメッセージに、インクルージョンの姿勢が如実に表れていると思います。

 社会生活を営む人たちの生活背景(バックボーン)や価値観、考え方にはさまざまな相違があります。自己と他者の違いを理解しながら、その違いを多様なものとして捉え、向き合う相手に自分を理解してもらうことが理想であり、私自身がそうなれるように目指しています。

 また、私の考えや行動の基盤には、大学生のときからボランティアで関わらせていただいている障がい児・者団体の存在があります。私が生徒の頃は、障がいのある方の社会参加がほとんどできず、ボランティアの情報もボランティアセンターに探しにいく状況でした。そうした環境下で、そのボランティア団体は外出活動では電車などを利用してさまざまな場所を訪れ、宿泊活動の中では地域に理解していただくために障がいのある方と一緒に地域の銭湯に行き、入浴帰りに商店街で買い物するなど、障がいのある方の地元での生活を支援するものでした。さらに、かつて、私の仕事だった「管理職としての店舗勤務」で、いろいろな失敗をしながらも最終的に大切なことはコミュニケーション(「話す」だけでなく「聴く」の必要性)であることを学び、その知見が企業と学校を結びつける「持続可能な育成プロジェクト」にも役立っています。店舗では、さまざまなバックボーンを持ったアルバイトやパートの方が働いていました。障がいのある方もいて、その雇用を促進するために精神・発達障害者就労支援専門職育成協会*14 でES(Employment Specialist/就労支援専門職員)の資格を取得しました――こうした私自身の経験から、ダイバーシティ&インクルージョンの基本は、“知ること”だと思っています。社会人の職場においても、生徒のサークル活動(部活動)においても、まずは物事や相手のことを知り、学ぶことが大切です。「『知らないということを知ること』から始める」と言っても良いでしょう。

 私自身、SDGsについて、ESDについて、地域への参加について、障がい者支援について…多くの方からご教示をいただいてきました。知り、学ぶことで、さらにその先を知ろうとする姿勢が生まれます。物事や相手に「積極的に関わりたい」と思って何かの行動を取るには相応のパワーが必要ですが、まずは、「興味・関心」のアンテナを立てることが、ダイバーシティ&インクルージョンの第一歩ではないでしょうか。

*14 一般社団法人 精神・発達障害者就労支援専門職育成協会 清澤康伸代表理事インタビュー記事(「オリイジン」より):障がい者雇用のいま(2)「医療型就労支援」が導く光明 障がい者と企業を結ぶ「ジョブコーチ」の現在形

※本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティマガジン「オリイジン2020」からの転載記事「SDGsの誕生理由とは?今後どんな成果を実現していくのか、改めて振り返ってみる」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。