10期連続最高益を更新中のワークマン。「高機能・低価格」という4000億円の空白市場を開拓し、国内店舗数はついにユニクロを抜きました。「しない経営」「データ経営」で改革を実行した急成長の仕掛け人が、ワークマン専務取締役の土屋哲雄さんです。今回、組織開発コンサルタントであり、「両利きの経営」を提唱した世界的な経営学者であるオライリー教授(スタンフォード大学経営大学院)の日本における共同研究者でもある加藤雅則さんとの対談が実現。ワークマンやAGCなどの事例をもとに、「両利きの経営」について熱く語っていただきました。日本で広まっている概念とどのように違うのか?前編では、知られざる「両利きの経営」の本質に迫ります。(構成/ダイヤモンド編集部 長谷川幸光)
「両利きの経営は
安易にやると失敗するぞ」
ワークマン専務取締役 土屋哲雄氏(以下、土屋) 本日はよろしくお願いいたします。
アクション・デザイン代表 加藤雅則氏(以下、加藤) こちらこそよろしくお願いいたします。土屋さんとの対談をとても楽しみにしていました。
土屋 「両利きの経営」についての対談とのことで、しっかりと加藤さんの共著(『両利きの組織をつくる――大企業病を打破する「攻めと守りの経営」』英治出版)を読み込んできました。
アクションクション・デザイン代表。エグゼクティブ・コーチ、組織開発コンサルタント、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科 兼任講師、早稲田大学大学院ビジネススクール 非常勤講師。日本興業銀行、環境教育NPO、事業投資育成会社を経て現職。2000年より、上場企業を中心とした人材開発・組織開発に従事する。「両利きの経営」の提唱者であるオライリー教授の日本における共同研究者。書著に『両利きの組織をつくる』『組織は変われるか』(共に英治出版)等。
加藤 ありがとうございます。ではまず最初に、「両利きの経営」についてご説明させていただければと思います。
土屋 お願いします。
加藤 私の恩師でもあるチャールズ・オライリー(スタンフォード大学経営大学院教授)とマイケル・タッシュマン(ハーバード・ビジネススクール教授)の二人が提唱する「両利きの経営」というのは、実は日本で広まっている概念とは少し違うんです。
オライリーとタッシュマン、あの二人の問題意識がどこから来ているかというと、「成功した企業がなぜ衰退してしまうのか?」という点。彼らはずっとこのテーマを追いかけています。それこそ私が彼らの学生だった頃からなので、かれこれ30年くらいです。あの二人はコンビなんですね。オライリーは「組織」を、タッシュマンは「戦略」を、それぞれ見てきた。
その答えが、既存事業を磨きながら、新しい事業機会を探って取り組むというもの。企業というのはこの二つを同時に追求しなければいけないんだということを、1996年に打ち出したんです。今では当たり前といえば当たり前なんですが、その後、20年近くかけてこの「両利きの経営」という考え方が広がって、今は米国の国防総省や海兵隊なども「両利きの経営」についてを学んでいます。
ここからが大事なところなんですが、オライリー先生はご自身の講義の最初に「両利きの経営は安易にやると失敗するぞ」と言っているんです。