前回から、元マイクロソフト日本法人の会長で現在は慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の古川享さんをホストに迎えて、古川さんが日本を変えていく存在と期待を寄せるスマート・ウーマンの方々との対談を掲載しています。今回はその第二弾。ソフトハウスの日本ネットシステムを経営される市川博子さんにご登場いただきます。市川さんが慶應義塾大学の職員時代に開発された知財管理システムは、当時の日本の大学ではさきがけであり、現在も多くの大学で活用されています。その後、働くママとして、日本初の「アフター幼稚園」を事業とする双葉教育を大学発ベンチャーとして創業。幼児教育界で活躍する一方、お父様の後を継いだシステム開発会社の経営再建も成し遂げられました。まさに一人何役もこなすスーパー・ウーマンです。

大学で使われる知財管理システムをさきがけて開発

「どん底のシステム会社を個性輝く存在へ」(日本ネットシステム、双葉教育・市川博子)(前編)――元MS日本法人会長古川享が聞き出す 今を駆けるスマート・ウーマンの本音いちかわ・ひろこ(左)/株式会社日本ネットシステム代表取締役社長。双葉教育株式会社代表取締役社長。幼児教室「麻布会」代表。東京都認可外保育所アフター幼稚園・学童保育の「ふたばクラブ」代表。関東ニュービジネス協議会教育・人材委員会副委員長。桜蔭中高、慶應大学理工学部卒・同大学院修了。理工学修士。大1・小5の二児の母。
日本ネットシステム http://www.nnet.co.jp/
双葉教育 http://www.futabas.jp/
Facebook http://www.facebook.com/HirokoIchikawa.futabas

ふるかわ・すすむ/元マイクロソフト日本法人会長/MS本社副社長。2006年から慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授を務める。

Photo by Lim Jungae

古川享(以下古川) 私が慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)の先生たちと交流していたときに、特許をより効率的に集め、それを検索できたら良いのではないかという話をしていました。素晴らしい発明の創発で特許を取得するだけではなく、それが有効に社会で使用実施されて多くの人に利用してもらいたいという、共通の課題意識を持っていました。

 市川さんに会ったのもその頃。SFCで新しく開発されたものを産学連携でどのように活用していくのか、知的財産をどう取り扱うのか、それを管理するシステムづくりに取り組まれていたと思います。関連した特許やこの特許を使ったらこんなことができるかもしれないということが閲覧できる、またライセンスを受けるときにアドバイスまでしてくれる。それまで閲覧することはシステムでできたけれど、導入するときにどこに相談したらいいかがわからないという状況で、それを解決する技術移転管理システム、「TL王」というソフトウェアを作られましたね。

市川博子(以下市川) 1998年TLO法(大学等技術移転促進法)の制定により、大学の研究シーズに関して知財を積極的に取得していき、企業にライセンスすることによって、産学連携活動を推進し、研究活動をより活性化させていこう、というこれまでにない全く新しい仕組みが全国の大学に新しくできました。

 企業には自社で使う知財管理システムがあり、知財が登録された後に他の企業にライセンスするということも行われていましたが、大学の場合は、出願すると同時に公開前からライセンス交渉を積極的に行っていきましょう、ということで、企業とは異なり、それ自体が新しいスキームだったために、その過程を管理するツールが全くなく、結果的に自分で一から作り上げた、と言う状況でした。

古川 産学連携を含め、大学で生まれた知財をどのようにライセンスし、教育現場に経済的にも還元していくかは国家の重要な課題です。日本の全大学の知財の総売上金額はアメリカのユタ大学一校と同じで、金額は60億円くらいにすぎないと言われています。しかも、東京大学が半分を占め、慶應、早稲田やほかのトップ私大であとの3分の1を分け、残りはほとんどありません。

 ハーバード大学やMIT(マサチューセッツ工科大学)、スタンフォード大学などは、それぞれ単独で300~500億円くらいの知財収入があります。実際多くのライセンスを企業に供与するだけではなく、事前に一緒に投資したり、共同研究したり産学連携の基盤が整っています。大学で創発された知的財産をどのようにライセンスしていくのかということを専門にしている機関があります。そこの公開/公募窓口を閲覧すると、自分が自由に投資したりライセンス供与を申請できる窓口があります。大学教授が自分でスポンサー探しをしなくても、間に立ったその機関が共同研究や知財契約の提案/締結をうまく回してくれます。