「有能感」とドーパミン
もう一つの心の3大欲求が「有能感」(competence)。
難しい問題が「解けた!」、パズルが「できた!」、知らないことが「わかった!」。
「つながり」同様、私たちの脳が新しい知識やスキルを学ぶとき、ドーパミンが分泌されて、報酬系が活性化します*2。
「できた!という感覚」は脳にとって非常に気持ちがいいのです。
「自発性」
さあ、「つながり」「できる感」ときて、3つ目は何でしょう?
無理やりやらされてはモチベーションが上がらない。
自分自身が望んでやっている。自分の意思を感じることができる。
自分の心の底から湧いてくる思いに、自分として主体的にやっている。
自分の自発性を感じることができる。
これが心の3大欲求の最後、「自発性」(autonomy)です。
「自分からやっている」「自分の意思でやっている」という感覚を欲するのは、人間の根本欲求なのです。
これも「つながり感」や「できる感」同様、脳科学的な基礎づけがされつつあります*3。
自分から進んでやっていると感じられるのが、私たちのモチベーションの根底にあるのです。
自己決定理論によると、「つながり」「有能感」「自発性」が高まるような環境を整えたり、それらを意識をすることで、モチベーションが高まったり、維持されたりします。
まわりの人と協力できたり、人のためになるプロジェクト。
自分が達成したとか、できるようになったと思える瞬間。
そして、やらされているのではなく、自分で自分のやるべきことをコントロールできている。
この3つの視点から、現在の自分の目標やモチベーションと向き合い直してみることは、脳の仕組みにかなった心の習慣なのです。
【参考先】
*1, Clark, I., & Dumas, G. (2015). Toward a neural basis for peer-interaction: what makes peer-learning tick?. Frontiers in psychology, 6, 28. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2015.00028.
*2, Stanislas Dehaene, How We Learn: Why Brains Learn Better Than Any Machine . . . for Now, Viking: USA, 2020.
*3, Murayama, K., Izuma, K., Aoki, R. and Matsumoto, K. (2016), "“Your Choice” Motivates You in the Brain: The Emergence of Autonomy Neuroscience", Recent Developments in Neuroscience Research on Human Motivation (Advances in Motivation and Achievement, Vol. 19), Emerald Group Publishing Limited, pp. 95-125.
スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長
経営者、教育者、論理学者
1977年生まれ。スタンフォード大学哲学博士。東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。教育テクノロジーとオンライン教育の世界的リーダーとして活躍。コロナ禍でリモート化が急務の世界の教育界で、のべ50ヵ国・2万人以上の教育者を支援。スタンフォード大学のリーダーの一員として、同大学のオンライン化も牽引した。スタンフォード大学哲学部で博士号取得後、講師を経て同大学内にオンラインハイスクールを立ち上げるプロジェクトに参加。オンラインにもかかわらず、同校を近年全米トップ10の常連に、2020年には全米の大学進学校1位にまで押し上げる。世界30ヵ国、全米48州から900人の天才児たちを集め、世界屈指の大学から選りすぐりの学術・教育のエキスパートが100人体制でサポート。設立15年目。反転授業を取り入れ、世界トップのクオリティ教育を実現させたことで、アメリカのみならず世界の教育界で大きな注目を集める。本書が初の著書。
【著者公式サイト】(最新情報やブログを配信中)
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