「1 on 1」と「2 on 2」の違い
一方、連載第2回に登場した荒金さんのINSIDESチームと私は、2 on 2の開発にあたり共同研究を実施してきました。その成果はこの本にふんだんに活かされています。
荒金さんのお話で興味深いのは次の3点でした。
1.すれ違いに向き合う大切さ
2.組織の見えている風景が変わる
3.相談を受けた人(外部の人・支援者)は、問題について考えることを手伝う存在
様々な人事アセスメントサービスがある中、最近は心理状態を可視化する技術が進んでいます。
しかし、人間同士のすれ違いを解決するテクノロジーはいまだ存在しないということなのでしょう。
でも、テクノロジーで解決できないなら、人が話し合えばいいという単純な話でもありません。
近年1 on 1が多くの企業で取り入れられていますが、問題の捉え方、組織の見える風景を1対1で変えることはなかなか難しいものです。
単に問題と向き合うのではなく、複数の他者を交え、問題について少し距離を取って眺めてみるのが2 on 2の特長です。
柳川さんのご指摘どおり、1 on 1を充実させるために2 on 2を活用することは大いにあるでしょう。
そう考えると、誰かが強制的に「2 on 2をやりなさい」という性質のものでも、社内の強制力のある制度として実施するものでもないように思います。
むしろ、必要があればいつでもどこでも自分から呼びかけて好きなときに実施する。まさにセルフケアとしてやっていくものです。
人から相談を受けると、つい「○○すればいい」と解決策をアドバイスしたくなりますが、多くの場合、問題の構図をよく把握しないままアドバイスすると、問題が慢性疾患化してしまいます。
外部の人や支援者の役割は、問題解決を急ぐ流れをいったん中断し、「話したいことが話せないのはなぜですかね?」と、問題の背景やメカニズムの研究を促す問いを発することにあると言えるでしょう。
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経営学者/埼玉大学 経済経営系大学院 准教授
1977年、東京都生まれ。2000年、立教大学経済学部卒業。2002年、同大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。2006年、明治大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得。
2006年、早稲田大学アジア太平洋研究センター助手。2007年、長崎大学経済学部講師・准教授。2010年、西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より埼玉大学大学院人文社会科学研究科(通称:経済経営系大学院)准教授。
専門は、経営戦略論、組織論。ナラティヴ・アプローチに基づいた企業変革、イノベーション推進、戦略開発の研究を行っている。また、大手製造業やスタートアップ企業のイノベーション推進や企業変革のアドバイザーとして、その実践を支援している。著書に『他者と働く――「わかりあえなさ」から始める組織論』(NewsPicksパブリッシング)がある。
日本の人事部「HRアワード2020」書籍部門最優秀賞受賞(『他者と働く』)。2007年度経営学史学会賞(論文部門奨励賞)受賞。