東京五輪委・ソニーグループも標的に
地政学的な要素からの攻撃事例

 敵を知り、己を知った上で、サイバー攻撃の予兆を捉えて適切に対応できれば、戦わずして勝てる可能性がある。以下は、未対応事例ではあるものの、「他山の石」と考えて、ぜひ今後の自組織での対応に生かしていただきたい。

(1)2016年12月4日 シンガポールテレコム(シングテル)の通信障害

 シングテルのファイバーブロードバンドサービスが、同日の午前8:45ごろに通信障害によりサービスを中断。通信障害の原因は不明と発表された。

 同年11月23日に台湾で軍事訓練を行ったシンガポールの歩兵運搬車が、帰路に「厦門(アモイ)」で留め置かれた事件が発生しており、これは台湾との軍事的なつながりに対する中国の反発と言われていた。

 シングテルの通信障害はこれに関連して発生した中国によるサイバー攻撃で、『一つの中国』 の原則に反した台湾との共同軍事訓練への報復であり、通信端末『ファーウェイ製ルーター』を中国が停止したと言われている。

(2)2007年4月27日 エストニアへの大規模サイバー攻撃

 エストニアの首都タリン中心部にあった第二次世界大戦記念の『旧ソ連兵士の記念銅像』を郊外・軍人墓地へ移転することに反発した、ロシア系住民の暴動『青銅の夜』が発生。ほぼ同時に、政府機関、複数の大手銀行、ニュースサイトなどがロシアから大規模なサイバー攻撃を受け、ダウンした。

 エストニアは、1940年にソ連に、そして独ソ戦で1941~1944年 ナチス・ドイツに占領され、1944年には再度ソ連に併合され、ソ連邦崩壊直前の1991年に独立した北ヨーロッパの共和制国家だ。

 旧ソ連兵士の記念銅像の移転がソ連戦勝記念日(5月9日)の直前だったこともあり、ロシア系住民が強く反発。そのため警官隊との衝突など暴動騒ぎに発展し、4月27日には国内Webサイトが攻撃されたと見られている。

 犯人は現在も不明だが、個人による小規模なサイバー攻撃でなく、国家レベルの大規模なもので、『サイバー戦争』と呼ぶ専門家もいる

(3)2020年10月19日 東京五輪・パラ関係者へのサイバー攻撃

 スポーツに絡んだ政治的サイバー攻撃に、日本も巻き込まれている。英国政府は「ロシアの情報機関が東京五輪・パラ関係者にサイバー攻撃を行った」と報告した。ロシアがドーピング問題で処分を受けたことに反発し、妨害工作を試みたという。

 対して日本オリンピック委員会は 「攻撃を承知していない。 業務に支障が出る大きな被害もない。 大会組織委員会など関係機関と日頃から情報を共有し対策している」と述べている。また、ロシア大統領府の報道官は「何でもロシアやロシアの特殊機関がやったと非難される残念な傾向が続いている。 ロシアとロシアの特殊機関は、いかなるサイバー攻撃も行ったことはない」と関与を否定した。