米国にとって重要性高まる
半導体生産力の強化

 経済運営面においてバイデン政権は、国内に企業を回帰させ、雇用を創出しなければならない。

 そのために、「産業のコメ」といわれる半導体の国内生産力を引き上げ、米国を軸としたグローバルな半導体のサプライチェーン整備は、喫緊の課題となっている。

 足元、世界的な半導体不足などによって、米国経済は供給制約に直面している。特に、雇用を支えてきた自動車の生産減少は軽視できない。

 その一方で、米国経済はコロナ禍の中にあっても自律的に回復している。バイデン政権の経済対策によって需要回復は勢いづき、3月の米消費者物価指数(総合ベース)は前月比で0.6%と、2012年8月以来の高い上昇率を記録した。米国の半導体生産力がインフレ期待をはじめ、経済の安定感に与えるインパクトは増している。

 以上をまとめると、バイデン政権にとって、台湾の地政学リスクへの対応、中国の台頭の阻止、自国経済の安定と持続的な回復のために、半導体産業の供給力強化の重要性が日増しに高まっていることは明らかだ。

 その対応を進めるために、バイデン政権は米国の自動車と半導体関連企業に加え、TSMCやサムスン電子の幹部と会談し、協力を求めたのである。

 バイデン政権は、半導体生産体制の確立に向けて、500億ドル(約5.5兆円)の補助金などを準備している。国内生産にコミットする米半導体メーカーへの支援が強化される可能性もある。

 バイデン政権の要請に対してインテルは、6~9カ月以内に車載半導体を増産する方針だ。それに対して、わが国では、ルネサス エレクトロニクスが当初の予想を上回るペースで、3月に火災が発生した那珂工場(茨城県ひたちなか市)のクリーンルームの運転再開に取り組んでいる。ルネサスにとって、米国がより多くの半導体を必要としている状況は、まさにビジネスチャンスなのである。