中国は従来、韓国に対して、2017年秋に「中韓が合意した」と中国が一方的に主張する「3不(3つのノー)政策」の履行を迫ってきた。

 それは、(1)米軍の高高度ミサイル防衛システム(THAAD)の韓国追加配備、(2)日米が主導するミサイル防衛(MD)への参加、(3)日米韓の防衛協力の同盟関係への格上げ――の三つを実施しないという政策だ。

 韓国政府関係者は当時、「我々は現状を説明しただけなのに、中国は将来にわたって約束したと一方的に発表した」と憤慨していた。

 だが、韓国が習近平主席の訪韓を求めれば、中国はその見返りとして、3不政策の履行を改めて迫る可能性が高い。

 文大統領自身は繰り返し、米韓同盟の重要性を強調してきた。

 中国に接近するのも、政権の最大の課題である南北関係改善のため、北朝鮮に影響力がある中国の支援を得たいという思惑からだろう。

 韓国政府の元高官は「文政権の残る任期期間中の最大のテーマは、『政権再創出』だ。次も、進歩主義的な政権を誕生させるためには、中間層の取り込みが必要だ。そのためにも米韓関係をこれ以上悪化させるわけにはいかない」と語る。

 しかし南北関係改善へのこだわりが、韓国だけでなく東アジアの安全保障のバランスを変え安全保障環境を不安定させてしまう可能性が出てきた。

北京五輪で南北首脳会談実現
対北融和策の成果にこだわる

 中韓外相会談で合意した2022年2月の北京冬季五輪への参加問題も政治色を帯びる。

「政治とスポーツを混同すべきではない」として、「五輪ボイコット」に同調しないという姿勢は評価されるべきだが、北京五輪に参加するなかで、韓国が中国側に取り込まれることを懸念する声がある。

 文政権は従来、東京夏季五輪を南北関係改善の機会にしようとしてきた。韓国政府・与党の関係者の間では「東京五輪の機会に、南北と日米の4者会談をやるのはどうか」という声も上がっていた。

 だが、北朝鮮は4月6日、東京夏季五輪への不参加を発表した。

 韓国大統領府は8日に開いた国家安全保障会議(NSC)常任委員会会議の報道資料で、「東京五輪が平和の五輪として開催されるよう外交努力をする」とし、北朝鮮に参加を働きかける考えを示唆したが、北朝鮮が応じる可能性はほとんどないとみられる。

 そこで韓国の政府与党内で浮上しているのが、「北京五輪の機会に南北首脳会談を開催する」というアイデアだ。