北京五輪は、韓国大統領選の1カ月前に行われるため、文大統領にとっては求心力を維持するということではほとんど意味を持たないが、それでも金正恩朝鮮労働党総書記との首脳会談を、最後にもう一度実現し、「朝鮮半島に平和が来た」と宣伝してきた文大統領や政権の主張が正しかったことを証明したいのだという。

 だが、ホスト国の中国が純粋な善意で南北首脳会談のお膳立てを手伝うとは思えない。

 韓国の政界関係筋は「保守勢力はもちろん、中間層も中国の脅威を心配している。もし、中国が米国をけん制するため、南北に中国とロシアを加えた4者首脳会談をやろうと言いだしたら大変だ」と語る。

 そんなことになれば、次期大統領選で進歩勢力が中間浮動層の取り込みに失敗する可能性が高まるからだ。

 韓国内ではいま、有識者を中心に「さすがの文政権もそこまでバカなことはすまい」という見方と、「外交を考えないのが文政権の特徴。最後まで南北関係改善に突き進む」という見方に分かれ、状況の推移をハラハラしながら見守っているという。

日韓のパイプは詰まったまま
徴用工・慰安婦問題で動きとれず

 展開次第では東アジアを巡る情勢がかなり緊張していく可能性があるなかで、日本や日韓関係は「カヤの外」に置かれそうな状況だ。

「あと1年しか任期がない文政権に、日韓関係を改善する意思も能力も残っていないだろう」と、日本政府関係者の一人は語る。

 日本が関係改善の前提と位置づけている徴用工・慰安婦判決問題では歩み寄りが見られていない。

 日本側は、徴用工判決の被告の日本企業や慰安婦判決の被告である日本政府が、それぞれ韓国内に保有している資産の強制執行が行われないという確約を韓国側に求め続けている。

 日韓は4月1日、東京で外務局長級協議を行ったが、進展はなかった。

 複数の関係筋によれば、韓国側は、韓国政府が賠償を肩代わりする「代位弁済案」について原告の元徴用工や元慰安婦、遺族らと接触し、感触を探っているが、原告の一部は柔軟な姿勢を示しているものの、大半の原告らは日本企業や日本政府の資産による賠償をあくまで求めているという。

 こうなると、文政権も「被害者中心主義」を掲げてきただけに、それ以上の働きかけができない状況だ。一方で日本政府も、2015年の慰安婦合意を最終解決としているだけに動きようがない。