しかし、(4)と(5)の場合はそうはいきません。どんなに実績や人望があっても、めぐり合わせによって出世が叶わず、人事制度のルールによって「降ろされる」リスクは、役職定年だけでなく、その先にもあるのです。

 会社にしがみつくだけでは先細りです。元気であれば、70歳まで自分らしく活動していくためにも、今から準備をしておいて損はありません。

 自分から降りて第2ステージの準備をする、役職定年や再雇用制度を受け入れる、起業する、フリーランスになる、仕事はほどほどに趣味や地域活動に生きる……いろいろな選択肢がありますから、自分には何が合うか考えてみてください。

競争社会から降りても自分が得する働き方とは

 東京大学名誉教授で社会学者の見田宗介氏は、「まなざしの地獄―都市社会学への試論」(『展望』173号、1973年、筑摩書房刊)の中で、現代社会の人間模様について、お互いに銃弾のような眼差しを交わしながら相手の地位や財力を値踏みし、「勝った」「負けた」といった消耗戦を毎日繰り返している状態と評しました。

 この論文が世に出てから半世紀近くになりますが、後に単行本化されたように今の時代にも当てはまる、的を射た指摘だと感じます。

 私もそうですが、本書を手にされているあなたも、この先のどこかで、この消耗戦から降りなければなりません。

「出世はいいから、自宅があるエリア限定、転勤を伴わない仕事をさせてほしい」

「役員になるよりも現場で仕事をしたいので、そうさせてほしい」

 こんなふうに自ら降りるパターンもあれば、上司に見る目がなく勝負すらさせてもらえないケース、そして、先に述べたように、役職定年や再雇用といった人事制度によって降りることを余儀なくされるケースもあるでしょう。

 いずれの場合でも重要なことは、うまく負けることではないかと思います。見田氏が言う「勝った」「負けた」の消耗戦への参戦が、動物的なスピリッツからくるものだとすれば、第一線から降りても新しい自分だけの生き方を作り出そうとするのは、まさしく人間的なスピリッツです。