わさびの味を広めるべく
海外進出も計画

 ポイントは刻印された「わ」「さ」「び」の文字の選択と、文字の空き部分がそれぞれ円を描きながら別の方向を向いている配置にある。わさび独特の辛味成分は、細胞組織が壊れて空気に触れることで生じる。そこで、文字の空き部分から空気を含ませるように円形にすりおろすことで、クリーミーかつ、わさび本来の辛味・風味を引き出す仕様となっている。

町工場の技術力と食のプロのコラボが生んだ「わさび専用おろし板」がヒット(上)同社が高い技術力を誇る工作機械用の「銘板」。製造現場の安全性や質の高いものづくりを支える“縁の下の力持ち”。(下)手刷りによるシルクスクリーン印刷を施した金属雑貨「いなせな手鏡」も製造。ノベルティー注文なども舞い込み累計4万枚を販売
●有限会社小林金属製版所 事業内容/工作機械用の金属銘板製造・金属雑貨製造、従業員数/11人、売上高/1億2097万円(2020年度)、所在地/静岡県沼津市大諏訪858-1、電話/055-925-8588、URL/kobayashimetal.co.jp
(「鋼鮫」専用販売サイト/yamamotofoods.co.jp/haganezame/jp

 ヒットの契機となったのは、鋼鮫を使った和食店の女将がツイッターでつぶやいたこと。そこから膨大な数の「いいね」、リツイートを経てプロを中心に評判に。メディア登場も追い風となり注文が殺到した。

 その後、生産性革命推進事業の「ものづくり補助金」などの活用で量産体制を構築し、今も製造数の上限である月約1000個をコンスタントに売り上げる。

 成功の秘訣として「わさびおよび販売・マーケティングのプロである山本食品さんと協力体制を構築し、役割分担をしたことが最大のポイントだと考えています」と稲村氏。リソースが限られる中小メーカーが新事業に挑むならば、得意分野に特化し、M&Aなども視野に入れた他社との連携が肝になると助言する。

 また、将来的な事業展開も見据えて実用新案も取得。わさび関連大手企業との協業による新たな研究開発も進めている。

 20年には海外進出を計画していたが、コロナ禍でいったん休止。しかし、全世界に広がる和食ブームを受け、「地元の名産品であるわさびのおいしさを鋼鮫と共に広げていきたいですね」と力強く語る稲村氏。鋼鮫が世界のグルメシーンで話題になる日も、遠くはなさそうだ。

(「しんきん経営情報」2021年5月号掲載、協力/沼津信用金庫