筆者が過去、本サイトで取り上げた「非歯原性歯痛」のほか、帯状疱疹、ラムゼイハント症候群、帯状疱疹後神経痛も口腔顔面痛の一つである。日本人の7~8割もいる顎に何らかの症状を持つ人のうち病院で治療を受けている人は7~8%しかいないといわれる「顎関節症」も口腔顔面痛の一つだ。

「私の患者さんで一番多いのは、非歯原性歯痛、要するに歯科的原因によらない歯痛です。痛みを感じる歯には何も原因がなく、痛みを感じる歯と離れた部分に歯科疾患とはまったく異なる異常があって歯痛を生じさせている。

 非歯原性歯痛を引き起こす疾患は8つに分類されていて、最も多いのは『筋・筋膜性歯痛』といわれる筋肉のコリによる歯の痛みです。これだけで約5割を占める。肩こりが強いときに頭が痛くなったり、歯が痛くなったりすることは知られていますよね。それと同じように、咬筋(頬部)、側頭筋(こめかみ)、胸鎖乳突筋(首)が筋・筋膜疼痛という状態になると、離れた所にある歯に関連痛として痛みが感じられることがあるのです。

 次いで多いのは、何らかの原因で神経が傷害された結果、鈍麻と共に過敏症状がでて歯痛が感じられる状態になっている神経障害性疼痛です。3割弱はこれですね。

 たとえば下の顎にインプラントを⼊れたり、親知らずを抜いたりした際に神経が傷つき、下唇の感覚が鈍くなったり、過敏になったりして痛みが出ることがあります。帯状疱疹ウイルスによって三叉神経が壊されて、痛みが起きていることもよくあります。帯状疱疹というとブツブツの水疱が出て、強い痛みが出るというイメージがありますが、口の中では、帯状疱疹のブツブツができないこともあるし、できてもわからないままに神経が傷害されて、後に帯状疱疹後神経痛と診断されることがあります。患者さんは、ひどい口内炎による痛みだったと思っていたので、まさかと思うようです」(和嶋歯科医師、以下同)

 歯はもう抜いてしまったのに歯がない、医療機関を複数箇所回っても原因不明、異常は無いと言われたり、診断名がころころ変わったりするなど、患者は謎の痛みに翻弄されて疲れ果て、もうダメだといった状態で和嶋歯科医師のもとにたどり着く。そして痛みの原因が「筋肉のコリ」だと知ると、「これまでかかった医者はどうしてわからなかったんですか」と涙を流す人もいる。

「歯科医師として患者さんに申し訳なく思い、その都度、口腔顔面痛の認知度を高めるためにもっと頑張らなければと思います。近年、歯科医師国家試験に非歯原性歯痛に関する問題が毎年出題されるに至り、学部教育の中で教えるようになっていますので、少なくとも、非歯原性歯痛を知らない歯科医師はいないはずなんですけどね」