星野リゾートが力を入れているマーケティングの中でも特に重視している「ブランド・マネジメント」。前回の、ブランド戦略を整理・実行してきた2009年からの取り組みと成果に続き、今回は現在感じているブランド毀損リスクとその背景について、星野リゾート代表・星野佳路さんに聞いた。(構成/斎藤哲也)
やみくもにサブブランドを増やすべきではない!
世界のホテル運営会社は、サブブランドを作り過ぎていると考えています。
ブランディングの理論では、特定のマーケットセグメントをターゲットする目的でサブブランドを設定するのですが、明らかに市場に存在するセグメント数以上のホテルブランドを各社とも投入しています。これはホテル運営受託の創成期である1980年代からの契約形態に起因していると考えています。
ホテルの運営会社と所有者との合意事項で、同じ地域に二つ同じブランドの施設を設定しにくい状態になっていて、結果的に新しいブランドを増やすことで同地域内の運営案件を増やしてきました。短期的な解決策として、そうしたマーケティング以外の理由でサブブランドを作り続け、市場に分かり難くしてしまったことで、結果としてExpediaやBooking.comなどのインターネットエージェントの役割を作ってしまったと考えています。本来は、明確なニーズの違いを持つ市場セグメントを認識しない限り、サブブランドは増やすべきではないと考えており、星野リゾートはこの原則を堅持しています。
前回の記事『星野リゾート代表が明かす「ブランド戦略」、10年間成果を挙げ続けた極意』でご紹介したとおり、星野リゾートはこれまで、マスターブランド寄りのサブブランド戦略を採用してきました。それぞれの特性に応じたサブブランド「リゾナーレ」「界」「OMO(おも)」「BEB(ベブ)」の前に、マスターブランドである「星野リゾート」を付けることで、「星野リゾート」というブランドから得られる集客のスケールメリットを生かす狙いがありました。
星野リゾート代表
1960年長野県軽井沢生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程を修了。帰国後、91年に先代の跡を継いで星野温泉旅館(現星野リゾート)代表に就任。以後、経営破綻したリゾートホテルや温泉旅館の再生に取り組みつつ、「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO(おも)」「BEB(ベブ)」などの施設を運営する“リゾートの革命児”。2003年には国土交通省の観光カリスマに選出された。
私たちの戦略は過去10年間、おおむね効果を上げてきたと言えます。限られたマーケティング予算をマスターブランド強化に集中させ、その効果をサブブランド施設の集客面に与えることで業績を向上させる。その結果、施設数が増えてくるとマーケティング予算が拡大し、マスターブランド強化がさらに進むという好循環が生まれていたのです。このプロセスにおけるサブブランドの役割は、季節ごとにユニークな新しい魅力を発信することでマスターブランドの情報発信力に貢献することと、顧客満足度を高いレベルで維持することでブランド毀損を起こさないことでした。
このようにブランド戦略は、単に広報上の表現の話ではなく、組織全体を巻き込んだ一貫性のある活動でなければならず、星野リゾートは過去10年間、チーム全体で戦略を共有し教科書通りに妥協なく取り組んできました。
しかし、これから先の星野リゾートの展開を想定した時、今までの好循環を生み続けるサイクルに問題が起きてくるかもしれない、という危機感を持っています。
その問題意識について、もう少し詳しく説明しましょう。