有料老人ホームではなく
有償ボランティアという選択肢

 草柳さんは85歳。「すずの会」の有償ボランティアとして長瀬さん宅を毎週訪れる。85歳の住民が96歳の住民の日常生活を手助けする。「住民同士がお互いに支え合うのが私たちのモットーですから」と、この日訪れていた同会代表の鈴木恵子さん(74歳)。長瀬さん宛てに届いた火災保険の書類を見ながら、長瀬さんとチェックする(写真2)。

川崎市に見る、住民が支え合う「地域包括ケア」の理想モデル写真(2):「すずの会」代表の鈴木さん(左)と、届いた火災保険の書類を見る長瀬さん/筆者撮影

 独居の長瀬さんは肺炎を患って、救急車で搬送されたこともあった。心配した大阪に住む娘が、有料老人ホームへの入居を勧めるようになる。だが、60年前に建てたわが家での暮らしを望んだ。

「困ったことがあったら,すずの会に相談したらいい」と亡くなった妻から聞かされていた。妻は13年前に亡くなったが、20年以上もすずの会でボランティア活動を続けていた。長瀬さん自身もマイカーを使い、利用者の送迎を手伝っていたこともある。

 長瀬さんは、介護保険の認定では要支援2。訪問介護サービスのヘルパーが長瀬さんの自宅へ週2日訪れている。月曜の午後には訪問リハビリを受け、訪問診療の医師が隔週で来訪する。そして、水曜と土曜には、自分の足ですずの会が拠点としている民家「すずの家」に、つえをつきながら通う。

 こうした1週間の生活プランは、鈴木さんたちが長瀬さんの体調や気持ちをおしはかり、相談しながら決めた。

 ヘルパー事業所からの訪問介護は、1日に40分。買い物や掃除などの生活支援にあたるが、介護保険制度内での支援なので短時間なうえ、散歩の同行はできないなど制約が多い。「その点、ボランティアでの活動ならば、気兼ねなくいろいろなことが自由にできます」と鈴木さん。