コロナ禍の緊急事態宣言で
起きた変化

川崎市に見る、住民が支え合う「地域包括ケア」の理想モデル写真(3):「すずの家」の前で代表の鈴木さん/筆者撮影

「すずの家」の民家は、長年同会が関わってきた高齢女性の自宅であった。一人暮らしが難しくなったため、特別養護老人ホーム(特養)に入居することになり、「ぜひ自宅を使ってください」と頼まれた。家賃は10万円。2014年4月から「すずの家」の表札を掲げ、自主的な住民デイサービスを始めている(写真3)。

 毎週、水曜と土曜日に10人ほどの高齢者たちが自宅から歩いて、あるいは送迎車でやってくる。雑談し昼食をとって、夕方前には帰宅する(写真4)。

川崎市に見る、住民が支え合う「地域包括ケア」の理想モデル写真(4):緊急事態宣言が解かれ、いつもの昼食の光景が戻った「すずの家」/筆者撮影

 定期的に週2日「すずの家」で過ごす長瀬さんにとっては、入浴の場であり、住民仲間と談笑できる社会参加の場でもある。「孤立」から抜け出せ、生活にメリハリが付く。

 しかし、コロナ禍による緊急事態宣言の期間中は、閉じねばならなくなった。その間、30人ほどの利用者たちには、電話で連絡を取り体調をチェック、気遣いを続けていた。弁当を作り、受け取りに来てもらうことにした。「運動も兼ね外出の機会にもなります。できるだけ閉じこもり生活にならないために」と鈴木さん。

 だが、それでも、一人暮らしで心配な人が出てきた。そこで鈴木さんは決断する。「特別に、ここに来てもらいましょう」。長瀬さんのほかに2人がすずの家に来訪。その後、認知症が進みだした女性が加わる。感染対策に十分配慮しながら、緊急事態宣言が解除された3月中旬まで4人は通い続けた。

 勇気ある決断だった。決断を支えたのは60人もの充実したボランティアの力だろう。介護関係の資格保持者が多い。社会福祉士が4人、介護福祉士は5人、ケアマネジャーは3人、ヘルパー研修修了者は22人にものぼる。鈴木さん自身も社会福祉士とケアマネジャーの資格を持つ。「すずの家」で入浴介助ができることからも、スタッフのレベルの高さが分かる。