右上がり組に入るための条件
(3)資本家率=金融収益の比率で測る

 経済格差の拡大は職業や働き方の他に、金融資産からの収益をどのくらい得ているかによっても大きく影響されている。経済学者のトマ・ピケティ氏が著書『21世紀の資本』で指摘したように、資本の収益率の方が賃金の伸び率よりも大きいため、資本を持っている層の富が、勤労者の富よりも速く拡大する傾向がある。

 この比率の測定方法は簡単だ。金融収益の総収入に占める比率を計算すればいい。株式などの保有から得た収益、ストックオプションで得た収益をまとめて「金融収益」としよう。この収益は、いわゆる実現益である必要はなく、配当や売却益などの実現益と、資産の値上がり益である評価益の増分との合計が、1年間にどれだけ増えたかで測る。

 例えば、1年間に会社から付与されたストックオプションの行使で期待できる利益の増加額と保有する金融資産が1年間に稼いだ利益(評価益を含む)が、年間の総収入の何%を占めるかを計算する。

 資本家率を上げる方法は二つある。一つは、自社株のストックオプションなど株式性の高い報酬を支払う会社に勤務することだ。毎年米誌「フォーブス」が発表する世界の富豪ランキング(2021年の1位は米アマゾン・ドット・コムの創業者であるジェフ・ベゾス氏、2位は米テスラの共同創業者であるイーロン・マスク氏)を見ても分かるように、大富豪は株式による利益から生まれている。

 世界的大富豪の多くは創業経営者だが、このランキングでは14位の米マイクロソフトの前最高経営責任者(CEO)であるスティーブ・バルマー氏に注目しよう。彼は創業者ではないが、会社から得たストックオプションや自社株によって大富豪となった、いわば「スーパー・サラリーマン」だ。彼のようなスケールは無理だとしても、勤労者が目指すことのできる一つのロールモデルだ。

 ストックオプションに縁の遠い人は、地道に金融資産の投資を積み上げて、運用で増やすことで資本家比率の向上を目指すしかない。けれども、例えば過去30年間の米国のような株式市場の環境が続くと、普通の勤労者の積み立て投資でも相当の額の資産が形成できて、金融収益を稼ぐようになれるはずだ。

 今後の世界および日本の市場が同程度に恵まれたものである保証は全くない。ただ、傾向としての資本からの収益の大きさを考えると、K字経済で「右上がり組」に入るためには、自分の「資本家比率」を上げる努力をすることが有効だろう。