高齢者の金融資産が預金に偏っていて心配

 一般論として、高齢者は保守的であるため、若者よりもリスクを避ける傾向があるようだ。加えて、日本ではバブルの頃まで「株に手を出す」などという言葉があったわけで、高齢者の中には「株式投資は真っ当な人間がやることではない」と考えている人も多いのであろう。

 そんな高齢者に向かって「株や外貨も持つべき」と説得することは容易ではないかもしれないが、だからといって「安全資産である預金だけの方が安全です」といったことは言いたくない。

 平均すると、高齢者の方が現役世代より多くの金融資産を持っている。その多くが預金であるとすれば、同じインフレ率でも、金融資産が大きく目減りしてしまうということだ。そうであれば、目減りのリスクを避けるための資産運用の必要性は、現役世代よりもむしろ高いといえるだろう。

 現役世代は、預金が目減りしても、インフレに伴って給料が上がると期待されるので、それを含めて考えると打撃は限定的だが、高齢者はインフレが来ても給料が上がるわけではないので、預金の目減りによる打撃は現役世代より大きい。

 筆者は、老後資金の最高の使い道は「65歳から70歳までの生活費に用いること」だと考えている。年金の受け取り開始を70歳まで待てば、65歳で受け取り始めた場合に比べて、毎回の受取額が42%も増えるからである。

 老後資金の最大のリスクが「長生きしている間にインフレが来て老後資金が底を突くこと」だと考えると、どんなに長生きしても支給され、しかも原則としてインフレ分だけ増額される公的年金は、最も心強い存在だ。それが42%増額されることほどありがたいことはない。

 そうであれば、何も資産運用などしなくても生活費に使うだけなので、本稿は無用だということになるが、実際には年金の受け取り開始を70歳まで待つ人は少ないようなので、本稿が必要となる。