1つの動作:「雲」を見ること

やる気ゼロでも、一瞬で「脳がポジティブになる」1つの動作イングリッド・フェテル・リー
ニューヨークの名門芸術大学プラット・インスティテュートでインダストリアル・デザインの修士号を取得。世界的イノベーションファームIDEOのニューヨークオフィスのデザインディレクターを務め、現在はフェロー。8年を投じた研究により「喜び」を生む法則を明らかにした『Joyful 感性を磨く本』は世界20ヵ国で刊行が決まるベストセラーとなった。
Photo by Olivia Rae James

空を見ることは、デジタル時代のあらゆるプレッシャーを和らげるのにうってつけの方法だ」と、プレイター=ピニーは話してくれた。

 彼に連絡を取ったのは、4月の朝のことで、青空いっぱいにふわふわした積雲が浮かんでいた。「最近ではそういう時間、脳が休止モードで惰性運転できる時間がどんどん減ってきている。そういう時間にこそ、脳は価値ある活動を行うのに」と彼は言った。

 そしてfMRI(機能的磁気共鳴映像装置)を使った研究で、空想にふけっているときと集中して思考するときとでは、活性化される脳の部位が異なることがわかったと教えてくれた。

 実際、ぼんやり考えごとをしている間も脳は活発に働いているうえ、これまで拮抗していると考えられていた脳の2つのネットワークが同時に活性化することが、研究により示されている。

 1つは、自分の内面を見つめたり、自分の中で生み出される思考に集中したりするときに機能する「デフォルトネットワーク」、もう1つは困難な課題に取り組んだり、外から与えられた目標を追求したりするときに機能する「実行系ネットワーク」だ。

 研究によれば、この神経活動のパターンは創造的思考のパターンに似ており、また空想は目先の課題を完了する妨げになることはあるにせよ、斬新なアイデアを思いついたり、短期的ではなく長期的な影響をおよぼす問題を考え抜くのに役に立つという。

人は「軽み」を喜びととらえる

 プレイター=ピニーは、のんびり雲を眺めるのは瞑想のようなものだと考え、雲は「なまけ者の守護女神」だという、ギリシアの劇作家アリストパネスの言葉を好んで引用する。雲ウォッチングは、何もせずぼーっと過ごす時間をつくる口実になり、生活の中に空想の時間を生み出すのに役立つのだ。

「長い時間じゃなくてもいい」と彼は言う。「ほんのしばらくでいい。でもその時間はある種の解放になる。地上のものごとから自分を切り離すことができる

 雲がすばらしいのは、世界のどこにいても逃避の手段になることだ。

「雲ほど平等な自然の景観はないよ」と、プレイター=ピニーは言う。「すばらしい自然景観がない場所でも、すばらしく美しい空を見上げることができるんだから」(中略)

 雲やその他の「浮かぶもの」について考えるうちに、その喜びが高さだけから来ているのではないことに気がついた。軽やかさの感覚も、喜びを生み出しているのだ。

 軽やかさの特性は、世界中で喜びの比喩として使われているようだ。マルチリンガルの友人たちに、「気軽」と「気重」のような言葉が母国語にあるかどうか聞いてみると、フランス語からスウェーデン語、ヒンディー語、ドイツ語、ヘブライ語、韓国語に至るまでの多様な言語にそうした例があるという答えが返ってきた。

 中国で行われた研究も、この関連性を裏づけている。人は軽い物体(風船など)の画像を見たあとは、ポジティブな単語をよりすばやく識別し、重い物体(岩など)の画像を見たあとは、ネガティブな単語を識別しやすくなる。

(本稿は、イングリッド・フェテル・リー著『Joyful 感性を磨く本』からの抜粋です)