前半部である「Air」では、エヴァを保有し、シンジが所属する「NERV(ネルフ)」が対峙する対象(敵)が、従来の使徒から「ヒト」へと移行する。人類補完計画の発動をもくろむ秘密結社「ゼーレ」の意向により、戦略自衛隊によるNERVの占拠と職員の虐殺が行われ、銃撃や爆撃、火炎放射を人に向けて断行する様は地獄の様相を呈する。

 それに対峙すべく起動したエヴァンゲリオン弐号機とそのパイロットであるアスカは、ゼーレが仕向けたエヴァ量産機に蹂躙(じゅうりん)され、遺体を鳥に食べさせることで葬る「鳥葬」のようにむごたらしく倒される。

 それを目撃したシンジは発狂し、後半部では彼を中心とした精神世界の描写がひたすらに続く。

 ヒロインをはじめとした各キャラクターの死や変貌、物語のキーイベントである「サードインパクト」の発動時とラストシーンの2度に渡って描写された絞殺シーンなど、とにかく「ロボットアニメ」「キャラクター作品」としてのエヴァをある種、否定するような表現が随所に見られる。

 ハッピーエンドとはとても受容できないその内容は、当時の庵野秀明監督の不安定な精神状態が反映されたものとも言われており、劇場版放映当時のキャッチコピー「だから みんな、死んでしまえばいいのに…」「では、あなたは何故、ココにいるの?」「…ココにいても、いいの?」からもその異質さを想像できる。

 過熱するブームに辟易した庵野氏は、「エヴァンゲリオンという作品を殺す」ことで「虚構から現実への帰還」を問いかけたのかもしれない。