また、ネット上で弱者男性論を語る人がよく使う言葉が「上昇婚」である。女性が自分より年収の高い男性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚」と呼び、一部の過激な論者の中には、高年収な女性は下方婚すべきであるとか、あるいは上昇婚を望む女性はわがままで分不相応だといった論調も見られる。

 しかし、現状において、女性の非正規雇用率の方が高く、収入格差も歴然としてあるのだが、その格差を埋めることについて熱心に語る論者は少ない印象だ。

「女あてがえ論」とは?

 「女あてがえ論」とは、弱者男性論にやや批判的な人たちが、弱者男性論者を皮肉って言った言葉である。結局、弱者男性の主張は「年収が低く女性にモテない自分たちにも女性をあてがえ」であり、女性の意思や人権に興味のない人たちの言うことであると断じている。

 しかし、これに対して反論も多くあり、特に、「はてな匿名ダイアリー」(匿名で日記が投稿できるWEBサービス)では弱者男性に関するさまざまな投稿がここ数カ月、乱立している。その中には、自分は女性にモテたいとか結婚したいというわけではなく、ただ差別しないでほしいだけだといった表明もある。

 つまり、弱者男性のツラさとは、ただ生きているだけで人から冷たくされたり無視されたりすること。彼らを「普通」に扱ってくれればそれでよいというわけだ。

 さらに、ネット上では「KKO」という言葉も見られる。「KKO」とは、「(K)キモくて(K)カネのない(O)オッさん」の略であり、「人間扱いされない」弱者男性の悲哀が語られる。

 一方で4月には、現代ビジネスで「『フェミニズム叩き』『女性叩き』で溜飲を下げても、決して『幸せにはなれない』理由」という記事が公開された。この記事の中で紹介されている通り、特に弱者男性論者の中にはフェミニズムあるいは女性の言動をバッシングし、憎悪を募らせるようなツイートをする人もいる。

弱者男性論をあおるのは強者男性?

 ここまで読んで、読者の皆さまは「弱者男性論」をどう思っただろうか。「一理ある」と思った人も、「それは違うのでは」と思った人もいるかもしれない。

 個人的に疑問を感じているのは、ツイッターやブログで弱者男性論の中核となっている論者たちの中には、それなりに年収がある男性も含まれている点である。ある論者は書籍を出版し、有料ブログも繁盛しているという。またネットTVに出演したこともある論者は高学歴で、地方で安定した職業に就いているとも言われる。「KKO」の、少なくとも一つの構成要件は満たしていない、つまり金はそれなりにある強者男性が、弱者男性論をあおっているようにも見える。

 冒頭の田端氏を、弱者男性と思う人はいないだろう。しかしそのツイートは、最も過激な弱者男性論者と同じように、女性の意思や権利を抑制する案である。

 もちろん、男性の生きづらさというのは当然あるし、少子化も社会問題である。ただ、極論は炎上ネタにしかならない。憎悪をあおるだけではなく、社会問題の解決に至るような議論をネットに求めるのは難しいのだろうか。