しかし、ここでいったん立ち止まることが必要だ。コロナ禍におけるテレワークは、緊急事態宣言が出されて外出自体が強く制限されるような特殊な状況下で広がった。突然の「一斉在宅勤務」急拡大に加え、新型コロナウイルス感染リスクのまん延というさらに特殊な事情も重なっている。このように広がった「特殊なテレワーク」を、「介護と仕事の両立」をもたらすものとして理解してしまうのは、いろいろな意味で危険だ。

 介護との「両立ができてしまう」ことが、実は介護者にとって介護離職や虐待といった悲劇のリスクを下げることに直結しないどころか、場合によっては高めてしまう場合がある。実際に、コロナ禍後の介護の現場からの報告や調査データからはそうした兆候が見て取れる。

介護テレワーカーの落とし穴
「両立」からは程遠い現状

 例えば、ある介護行動のデータを確認してみよう。パーソル総合研究所の調査によれば、介護を行っている就業者は、たくさんテレワークすればするほど、一日の介護時間が長く、より介護にコミットしているということが分かる。逆の因果として、介護が必要な状況であればあるほどテレワークを選択しているという見方もできるものの、テレワーク頻度は「家族本人の介護関与の上昇」と正の相関があることが示唆されている。

テレワーク頻度と介護している確率出所:パーソル総合研究所「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」
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 筑波大学大学院の久野譜也教授らの調査によれば、2020年11月時点で、高齢者の約40%で認知機能低下の傾向が確認され、その数は5月時と比較して約4倍になったという報告がなされている。コロナで外出不足、運動不足が進み、高齢者の認知機能低下を招いているようだ。

 そんな中、介護者(多くの場合は被介護者の子ども)は、使いやすくなったテレワークを利用して実家に帰り、親の暮らしぶりを「見られてしまう」。通勤時間がなくなった分、週末だけではなく、平日でも「帰省できてしまう」。デイサービスなどの外部サービスを利用しなくても自分で「介護できてしまう」――。生活空間を共にすることが多くなった子どもは、親の記憶力の低下や、認知能力の低下を目の当たりにし、ますます介護意識が高まっていくことは想像に難くない。

 こうした介護とテレワークの「両立可能性」が、結果的に、介護者の「親のそばにいたくなってしまう」という心理を底上げしがちだ。さらにここに、重症化しやすい高齢者の感染リスクを下げるために介護サービスも自粛したほうがよいという、コロナ禍ならではの意識が重なってくる。場合によっては、介護する子どもが近くにいることで、介護される親にとっても「子どもがそばにいるのでつい頼ってしまう」という状況が生まれやすくなる。