では、このループを脱するには、どうしたらいいだろうか。企業は、まず前提として自社のテレワークを含めた働き方への指針やガイドラインをしっかりと示すべきだ。多くの企業が、テレワークに対しての自社の指針やガイドラインを示さず、「各自適切に」「顧客に合わせて」といった言葉で、出社を従業員の自主性にゆだねてしまっている。

 これでは、「自社としての正解」「経営・人事としての意思」を示さないことによって、結局、従業員側の「テレワークしたいか、したくないか」という属人的な思いに意思決定を託してしまうことになる。だからこそ、感染リスクが下がったとたんに「なし崩し」的に出社者が増加する。これでは、テレワーカーの評価や不安感、孤独感は増大するばかりだ。

 コロナ禍におけるこうした企業の情報発信や動向は、そこで働く従業員の心理に大きな影響を与える。コロナ対応における方針や十分な情報提供や、メンタル・健康サポートの充実は、組織へのコミットメントを高めることも示されている(パーソル総合研究所「テレワークによる組織の求心力への影響に関する定量調査」)。まず企業は、自社が描くこれからのワークスタイルを、テレワークのような選択肢を含めて検討し、従業員に示すことが先決だ。

 そして、介護を抱えている部下の上司は、「個」へのケアを怠らないことが重要になる。テレワークによって仕事が一見回っているように見えても、実は介護者は隠れて真夜中まで残業していたり、評価への不安や孤独感を感じていたりすることが多い。テレワークで部下の行動が見えにくくなるからこそ、日常的な相談や対話の糸を切らさず、必要に応じて地域包括支援センターのような専門窓口へのガイドなどのサポートを行いたい。

 最後の問題は、本人こそが、「親のそばにいたい」という願望を抱いていることだ。それは当然の子ども心であるからこそ否定しにくい思いでもある。しかしその思いと、介護を全て自分でやろうとすることはまた別である。少子化によって介護負担をシェアする兄弟姉妹の数も減っている中、自分一人で「仕事も、介護も」と背負うことなく支援のネットワークを広げ、これまで述べてきたような「両立の負のループ」にはまらないようにしてほしい。

 テレワークは、うまく使うならば、介護への適切な関与をしやすくなるものだし、今後の日本社会においても、人々の働き方の選択肢を広くすることは不可欠だ。しかしそれは、「テレワークができるなら大丈夫」という短絡を意味しないし、企業、そして介護する本人も十分に理解し、よりよい両立のための議論を続けるべきだ。

 本稿執筆に際しては、NPO法人となりのかいご代表・川内潤氏から多大なる情報提供をいただいた。この場を借りて、お礼申し上げたい。