「状況は刻一刻と変化しているけれど、はっきりした決定をしなくてはならない……」「でも何をどうしたら良いのか……」。そうしたときに役立つ方法が「ディベート」です。ディベートというと、選挙のときに党首間で行う論戦などを思い浮かべるかもしれませんが、それだけに限らず、ビジネスの現場などいろいろな状況で活用することができます。本稿では、私が企業研修やワークショップで行っている「略式ディベート」について、例を用いてわかりやすく解説します。(一橋大学名誉教授 石倉洋子)
「先が読めない状況なのに決断を迫られる…」
そのようなときに役立つディベートのスキル
東京、大阪、京都、兵庫の4都府県の緊急事態宣言が5月末まで延長、そして愛知県と福岡県、さらに北海道、岡山県、広島県も対象地域に加わりました。新型コロナウイルスに関する発表が次々とされますが、「何だかはっきりしないな」という印象をお持ちのかたが多いのではないでしょうか。
「緊急事態宣言」と「まん延防止等重点措置」の違い、百貨店など大型商業施設への休業要請についての東京都と政府の足並みの乱れ……。東京五輪・パラリンピックについての記者会見なども「様子見」という感じが強く、政府は一体「何」を「どう」決めようとしているのだろうか?と疑問に感じます。
また、ワクチン接種の状況も、政府は地方自治体任せで、予約のための電話やWebサイトがパンク状態など「もうやっていられない!」と思うことがしばしばあります。
一方、個々の企業のニュースを見ると、「テレビの国内生産から撤退する」「コンシューマー事業を売却する」とか、「DX推進に240億円を投資する」「大型工場をXに建設する」とか、対象、時期、金額などが比較的はっきりしていることが多いようです。
以前は企業も、意思決定の基準や有無がはっきりせず、「続ける」という意思決定をしたのかわからないが、(利益が出ない事業も含めて)さまざまな事業を並行して続けている、という状態が見られました。
それが最近になって、はっきりした意思決定を企業が行うようになってきたのは、その企業自体の生き残りがかかっているからではないでしょうか?
つまり、成長が期待されていた新興経済がコロナ禍で打撃を受けている中、日本の企業や社会のデジタル化・システム化の遅れが明らかになってきている。デジタル化・システム化以外に方法がなくなってきたからこそ、一挙に進む力が働いているようです。
製造業においても、今持っている資産(人材、技術、データなど)だけでは、常に進化していく業界で成功するのは難しい。注力するところとそうでないところのメリハリを付けなければ、企業自体が生き残れない状況となっているのです。
「状況は刻一刻と変化しているけれど、はっきりした決定をしなくてはならない……」「これまでのような選択肢が見えないが、何とか決めなくてはならない……」「でも何をどうしたら良いのか……」。そうしたときに役立つ方法が「ディベート」です。