職場のコミュニケーションは「IQよりEQ(心の知能指数)が大事」。そんな話をよく耳にしますが、本当にそうでしょうか。『その仕事、全部やめてみよう』の著者である小野和俊さんは、自身のことを「人類史上最低レベルのEQ」と言い切ります。
EQなんて低くたって大丈夫。職場ではEQよりも、もっと大切なものがある。
ITベンチャーの代表を10年以上務め、現在は老舗金融企業のCTOとして企業改革を実行。その中で見えてきた「仕事で本当に必要なコミュニケーション力」を教えてもらいました。
(取材・構成イイダテツヤ、撮影疋田千里)

――『その仕事、全部やめてみよう』には、「相手のことを尊重し、理解しよう」という柔らかなメッセージがたくさん見受けられます。その意図や思いを聞かせてください。

小野 グーグルって「ものすごく先進的な企業」というイメージがあるじゃないですか。たしかにそういう面もあるんですけど、実は、自分たちの成功と失敗について、お金と時間をかけてじっくり分析する会社なんです。

「どういうプロジェクトが成功して、どれが失敗したのか。その要因は何なのか」を徹底して検証します。その分析によって得られたのが有名な「心理的安全性」の話です。実際にグーグルでは「HRTの原則」が実践されています。

Humility 謙虚
Respect 尊敬
Trust 信頼

 それぞれの頭文字を取って「HRT」。「HRT」と聞くとカッコいいですけど、「謙虚、尊敬、信頼」なんて、これだけ見たら「和の文化」そのもの。伝統的な日本企業の社長室に、書道で書かれた社是として飾ってあってもいいくらいの言葉ですよね。

 この「HRTの原則」は、いろんなものを融合させていかなければならない時代には、特に重要だと思っています。

 「旧来の工業の時代のやり方がダメで、新しいデジタルの時代のやり方が正しいか」と言えば、必ずしもそういうことではありません。大事なのは、「それぞれの良さを必要に応じて取り出していく」スタンスなんです。

 これは「融合が大切」と言い換えることもできます。考え方やこれまでの経験の違う人同士が会話し、仕事を進めていくことになるわけですから、「謙虚、尊敬、信頼を大切にしよう」は当たり前の話ですよね。

小野和俊(おの・かずとし)
クレディセゾン常務執行役員CTO
1976年生まれ。小学4年生からプログラミングを開始。1999年、大学卒業後、サン・マイクロシステムズ株式会社に入社。研修後、米国本社にてJavaやXMLでの開発を経験する。2000年にベンチャー企業である株式会社アプレッソの代表取締役に就任。エンジェル投資家から7億円の出資を得て、データ連携ソフト「DataSpider」を開発し、SOFTICより年間最優秀ソフトウェア賞を受賞する。2004年、ITを駆使した独創的なアイデア・技術の育成を目的とした経済産業省のとり組み、「未踏ソフトウェア創造事業」にて「Galapagos」の共同開発者となる。2008年より3年間、九州大学大学院「高度ICTリーダーシップ特論」の非常勤講師を務める。2013年、「DataSpider」の代理店であり、データ連携ソフトを自社に持ちたいと考えていたセゾン情報システムズから資本業務提携の提案を受け、合意する。2015年にセゾン情報システムズの取締役 CTOに就任。当初はベンチャー企業と歴史ある日本企業の文化の違いに戸惑うも、両者のよさを共存させ、互いの長所がもう一方の欠点を補う「バイモーダル戦略」により企業改革を実現。2019年にクレディセゾン取締役CTOとなり、2020年3月より現職。「誰のための仕事かわからない、無駄な仕事」を「誰のどんな喜びに寄与するのかがわかる、意味のある仕事」に転換することをモットーにデジタル改革にとり組んでいる。著書に『その仕事、全部やめてみよう』がある。

――実際、小野さんも「HRTの原則」を意識して、日常的にコミュニケーションをされているということですか?

小野 もちろん意識はしています。

 でも、そういうことがもともと得意だったかと言えば、そんなことはまったくないんです。コミュニケーションにおいて「EQ(心の知能指数)が大事」ってよく言われるじゃないですか。

 じつは僕、EQがめちゃくちゃ低いんです。人類史上最低レベルに低くて、Webで提供されている検査を受けると「人の気持ちを理解するのは難しいですか?」なんて判定結果が出ちゃうんです(笑)