インフレと株式投資の関係を理解するためには、株式の理論価格の簡単なモデルを参照すると役に立つ。株価は、将来の利益の割引現在価値の合計として考えることができて、1株当たりの利益をE、割引率をr、利益の成長率をgとし、rとgは将来の時点に関係なく一定だとすると、理論株価Pは、P=E/(r−g)で表すことができる。

 数字を入れてみると、1株当たり利益が1000円(E=1000)で割引率が8%(r=0.08)、利益成長率が3%(r=0.03)なら、理論株価は2万円となる。

 そして割引率は、信用リスクを取らない債券の利回り(リスクフリー金利/名目金利)と投資家がリスクを負担することに対する追加的要求リターンであるリスクプレミアムとの合計だ。さらに名目金利は、インフレ率を差し引いた実質金利とインフレ率に分解できる。

 一方、利益成長率の方でも、名目ベースの成長率をインフレ率と実質成長率に分解して考えることができる(図1を参照)。

 仮に予想されるインフレ率が変化しても、実質金利、実質利益成長率、リスクプレミアムの三者が変わらなければ、理論株価は変わらない理屈だ。例えば、予想インフレ率がこれまでより2ポイント上昇しても、株価は変わらない。

 しかし、その変わらない株価で投資したときの期待収益率は、名目金利+リスクプレミアムとなるので、これまでよりも期待インフレ率の上昇分だけ2ポイント高くなる。インフレも、株式投資の収益率も「共にこれからのこと」なので、株式投資の収益率の変化がインフレ率の変化に追いつく理屈だ。株式投資によって資産の実質価値が減価することを免れると期待できる。