米国の消費者物価上昇が
株価の下落材料になった理由

 では、米国の4月の高い消費者物価指数上昇率はなぜ株価の下落材料になったのか。

 上記のようなフレームワークで考えると、リスクフリー金利と名目成長率の構成要素の中で「インフレ率」は共通で相殺される。そのため有力な可能性として、実質金利の上昇の方が実質成長率の上昇よりも大きいと考えられたときに、理論株価は下落することになる。

 それは、どのような場合か。

 典型的には、高いインフレ率を下げようとして中央銀行(米国なら米連邦準備制度理事会〈FRB〉)が金融政策を引き締めることによって実質金利が上昇する場合だろう。

「金利上昇vs成長率上昇」で
株価の上昇・下落が決まる

 仮に、インフレ率の目標が「年率2%」だとしよう(現実に、ほぼそうだ)。

 インフレ率が0%から1%へと1ポイント上昇した場合、中央銀行としてはインフレ率が目標にまだ足りない。だから、実質金利の上昇を避けるために金融緩和政策を維持しようとして、名目金利が上昇しない政策を採るだろうと期待される。

 一方、インフレ率の上昇自体は名目成長率の引き上げ要因だ。こうした場合、金利上昇(=実質金利上昇)<成長率上昇(=実質成長率上昇)となって、理論株価は上昇する。

 他方、例えば3%のインフレ率が4%に上昇したらどうなるか。

 4%は、2%の政策的インフレ目標に対して明らかに高い。中央銀行は、インフレ率の上昇を抑えようとして金融引き締め政策(≒実質金利の上昇につながる政策)を採る公算が大きい。この場合、「金利の上昇>成長率の上昇」となる可能性があり、そうなると理論株価は下がる。従って、「それ自体が高い水準での期待インフレ率の上昇」は株価にとっては下落につながる。

 現実の市場では、中央銀行が金融引き締め政策に転ずる前に、そうした変化を予想して債券利回りが上昇する(名目金利が市中で上昇する)ので、その状況を見て株式が売られて株価が下がることが少なからずある。

 インフレ率の上昇は、(1)債券利回りに与える影響が大きいときは株価にとって悪材料で、そして、そうなるかどうかについては(2)インフレ率の水準と市場参加者の中央銀行の行動に対する予想が影響する。