子どもの頃にブラックモンブランを食べていた九州出身の人たちの中には、地元を出て生活している人も多い。そうした九州出身者たちにまたブラックモンブランを手に取ってもらい、思い出とともに懐かしく楽しんでもらうことで、その家族や周りの人たちへとファンの輪が広がっていくことを期待している。

 関東地方では、「九州のおなじみの味」であることを知らない人が大多数だ。そうした中で「九州出身の人たちにアンバサダーになってもらうこと」(竹下氏)が、何よりも強力な宣伝効果を生むと考えている。

新たな拠点を設けた背景には
19年の豪雨被害も

 また、実は買収には別の目的もある。それはBCP(事業継続計画)だ。

 19年8月、九州北部は記録的な豪雨に見舞われた。竹下製菓が本社を構える佐賀県内でも各地で土砂崩れや浸水などの被害が出た。竹下製菓の工場は高台にあり、直接的な被害はなかったものの、一部の付帯設備には崩れた土砂が入ってくるなどの影響が出たという。また、近くの集落では浸水被害が発生し、一部の社員は避難生活を余儀なくされた。

「近しい業種の企業が被災したり、社員が出社できなくなって工場が止まったりといった話を聞いていました。同じエリアではないところに拠点があれば、そうしたリスクは分散できるのではないかと考えました」(竹下氏)

 拠点を別の地域にも持てば、災害や緊急事態が起こった際に生産機能が全て停止してしまうことを避けられる。こうした観点でかねて買収を検討していた。

 ただ、新たに関東に生産拠点ができて生産量が増えるなら、販売先を増やすことは必須条件だ。「頑張って売っていくしかない……ある意味、背水の陣といえるかもしれない」(竹下氏)

 ブラックモンブランを売り伸ばすだけでなく、新商品開発にも力を入れる。一つの人気商品に頼ることは、経営上のリスクが大きい。どの商品も「次のブラックモンブラン」にするという気持ちで送り出しても「なかなか並び立てない」(竹下氏)のが現状だが、諦めずに開発を続けていく。

 課題は、「継続性」にある。発売当初はブラックモンブランに次ぐ売れ行きを見せる商品もあるが、なかなか続かない。いかに売れ続ける商品を作るか。そういう意味でも、50年超にわたって親しまれているブラックモンブランの功績は偉大だ。5代目社長は、祖父が生み出した看板商品の背中をこれからも追いかけ続ける。

◇この記事はダイヤモンド・オンラインとYahoo!ニュースによる共同企画記事です。