横浜発! スポーツとエンタメを中心に都市経営を考える組織

 そんな日本の現状を憂いている中、横浜の政財界から横浜の地域活性化について意見を求められる機会が増えています。横浜DeNAベイスターズの初代社長という立場で、スポーツを通じた都市づくりの経験のある私に、横浜にいろいろ意見を言ってほしいといったアプローチです。特に多いのが、IR(統合型リゾート)計画、つまりカジノ招致に対して意見を求められるケースです。

 はっきり言えば、「今はカジノなんかよりコロナでしょ」で話はおしまいです。ただ、スポーツビジネスで社会に関わってきた私があえて語るとしたら、カジノで街を豊かにすることは子どもに説明がつかないと思っています。カジノ招致にはいいこともあるのかもしれないけれども、悪いことも多々ある。ギャンブル依存症の怖さやそういった方々を回復させる施設の話などを見聞きもしました。「もうけ」だけを考えるならともかく、地域活性化の中心にするのは難しいと言わざるを得ません。

 そもそも横浜には都市経営の資源が山ほど眠っているのに、なんでいきなりカジノなの?と思います。税収を手っ取り早く上げるという目的では、横浜の民意は得られないでしょう。1つ明確に言えるのは、カジノを新しく造るよりも、スポーツやエンターテインメントなどの資産を有効に使った方が魅力的で多くの市民がワクワクする街づくりができるはずだということです。次世代の横浜を担う子どもや青少年にとってもその方がいい。反対意見があふれる中、東京五輪を無理やり開催するのならば、なおさらカジノなんかよりもスポーツやエンターテインメントを中心にした、未来の都市経営を示した方が筋が通ります。

 ベイスターズがよみがえり、横浜スタジアムがよみがえることで、横浜の街は元気になりました。球場は誰もが集える場所になり、子どもたちにも喜んでもらい、地域の飲食店や横浜・関内の街も活性化しました。スポーツやエンターテインメントにはそのような力があるのです。

 私はもうベイスターズとは何の関係もありません。しかし、横浜は私が生まれ育った土地です。その故郷で、スポーツとエンターテインメントを都市経営に活かしていく方法や道筋を模索してみたい──。そう考えて、「勝手組織」として立ち上げたのが、横浜未来都市経営研究所です。この研究所でまずは10年後の2030年に横浜がどうあるべきかを大きな視点で取りまとめてみようと思っています。現在は数人の有志と意見交換を進めている段階です。何かしらのプロトタイプ的な「思考モデル」をつくれればいいと思っています。そのモデルは必ずや、ブロンコスの地元であるさいたま市や埼玉県にも有用なものになるはずです。

 研究所で得られた知見や考え方は、この連載を含め、さまざまな場所で開示していこうと思っています。ぜひご期待ください。

スポーツは政争の具ではない!スポーツビジネスから都市経営を考える組織を作った背景にあるものPhoto:Yumiko Asakura
池田 純
早大卒業後、住友商事、博報堂勤務などを経て2007年に株式会社ディー・エヌ・エーに参画。2011年横浜DeNAベイスターズの初代社長に就任。2016年まで5年間社長をつとめ、コミュニティボール化構想、横浜スタジアムのTOBの成立をはじめさまざまな改革を主導し、球団は5年間で単体での売り上げが52億円から110億円へ倍増し黒字化を実現した。退任後はスポーツ庁参与、明治大学学長特任補佐、日本ラグビーフットボール協会特任理事などを務め、2019年3月にさいたま市と連携してスポーツ政策を推進する一般社団法人さいたまスポーツコミッションの会長に、翌2020年3月にはB3リーグさいたまブロンコスの経営権を取得し取締役にも就任した。また、現在有限会社プラスJ(https://plus-j.jp/)では、世界各国130以上のスタジアム・アリーナを視察してきた経験をもとに「スタジアム・アリーナミシュラン」として、独自の視点で評価・解説を行っている。著書に『常識の超え方』『最強のスポーツビジネス』(編著)など。