――教育によって「本当の豊かさ」を知っておく、他者の価値観への受容性をつけるといったことは、大切ですね。

冨山 確かに、そこは大学生になってからではちょっと遅いかもしれない。また、受験で評価されないと真剣にやろうということにならないですからね。

宮田 もう一つ、社会に出てから活用できる能力を高めるために、大学4年間があまり役に立っていないという指摘もあります。若者自身がライフプランと働き方を自主的に考えられるようにするために、大学がサポートすれば、キャリアも変わってくるのではないでしょうか。

 今、大学を卒業すると、20代は馬車馬のように働いて、マネジメント層に入るのが30歳をちょっと過ぎてから。マネジメントに上がると、体力的にも時間的にも少し余裕ができ、そこでようやく次のライフステージを考えることができますが、これでは、晩婚化が進み、子どもをつくるタイミングも遅れていきます。これが、先の人生の選択肢を狭めている要因かもしれません。

 20代の段階でマネジメントに上がれるようにできれば、ライフプランも変わります。特に女性にとってはプラスが大きい。早くマネジメントする立場に上がれれば、子育てしながら働く選択肢も増えるかもしれません。もちろん、それだけで日本の少子高齢化問題が解決するとは思わないですが。

 また、副業・兼業時代でもあるので、所属意識は薄まっています。これまでは「いい企業に入ることが人生を幸福にする選択だ」という感覚が強かったと思うのですが、今後自分はどういう貢献をして、どう社会と関わるのがいいのかという視点で職場を考えるようになるでしょう。

 だからこそ、学びの機会のあり方を、「豊かに生きるための時間」として再構成することで、生き方を解放することにつながるような気がしています。

 変わるタイミングは、あらゆる世代が変化に向けて動きださなくてはいけない今です。若い世代が力をつける10年後、とか言っていては手遅れです。組織のある程度のポジションにあるのであれば、その組織を動かすようなチャレンジをすること。それができなければ、外とつながって何か試みを起こすこと。できることはいろいろあります。

冨山 確かにその通りですよね。日本はやっぱりある種のルネサンス(再生・復興)をやらなければまずいですよ。


40代は織田信長、50代以上はゴッドファーザーに!冨山和彦と宮田裕章が語るリーダー教育

冨山和彦
経営共創基盤(IGPI)グループ会長  1960 年生まれ。東京大学法学部卒。在学中に司法試験合格。スタンフォード大学経営学修士(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、産業再生機構COOに就任。カネボウなどを再建。解散後の2007 年、IGPIを設立し代表取締役CEOに就任。数多くの企業の経営改革や成長支援に携わる。2020 年10月より現職。同年12月、地方創生を目的とした投資・事業経営会社「日本共創プラットフォーム」(JPiX)設立を発表、代表取締役社長に就任。パナソニック社外取締役。『コロナショック・サバイバル』『コーポレート・トランスフォーメーション』(ともに文藝春秋)、『「不連続な変化の時代」を生き抜く リーダーの「挫折力」』(PHP研究所)など著書多数。

40代は織田信長、50代以上はゴッドファーザーに!冨山和彦と宮田裕章が語るリーダー教育

宮田裕章
慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授 1978年生まれ。専門はデータサイエンス、科学方法論。2003年、東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程修了。同分野保健学博士(論文)。2015年より現職。専門医制度と連携したNCD、LINE×厚生労働省「新型コロナ対策のための全国調査」など、科学を駆使し社会変革を目指す研究を行う。2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)テーマ事業プロデューサーも務める。著書に『共鳴する未来』(河出新書)、『データ立国論』(PHP新書)がある。